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生体兵器。
それは帝国が生み出した『生ける兵器』に付けられた呼称である。
強靭な肉体を持ち、植え付けられた破壊本能に従い、敵を抹殺する。彼等は、帝国が建国して間もない頃にある研究者によって生み出された。
素体に生体兵器の細胞を移植するか、生体兵器同士の交配により、造られる。手法は比較的容易だが、生体兵器が誕生する確率はどちらも低く、また個体を生み出す事に成功しても知能が低い等、何かしらの欠陥を持つ事が多い。
扱い易さから人間を主な素体とするが、小動物から猛獣まで、対象は幅広く、様々な種が存在する。強靭な肉体に加え、魔法が使える知性の高い個体が完全なる成功作――完成型だが、魔法使いそのものが稀少な存在であり、成功率の低さも相成って、現時点で存在する完成型は三個体のみとなっている。風の魔法使いであり、優れた知能を持つレーレ、炎の魔法使いであり、身体能力に長けたグルート、そして――


『被験体No.8524――ラヴィーネ、帰還しました』


無機質な機械音声と共に、鉄で出来た重厚な扉が開く。見張りとして立っていた兵士達は、扉が開くのと同時に姿勢を正し、敬礼して見せるも、瞬間流れ込んで来る強烈な冷気に思わず身を震わせた。
開いた扉の先から現れたのは、レーレやグルートと良く似た顔立ちの男だった。長い青銀の髪に、金色の双眸。整った顔立ちに肌は白く、陶器の様に滑らかで、全体的に作り物の様な印象を与える。流れ込んで来た冷気は男の身から発せられているもので、それだけで彼が普通のモノでは無い、異質な存在であると周囲の者達は認識する。
生体兵器の完成型、その中でも最強とされる兵器・ラヴィーネ。身体能力や知性では他の二個体に劣る所があるものの、魔法使いとしての素質は彼等を遥かに凌駕する。存在そのものが天災とされ、彼が戦場に立てば如何な軍勢、土地であろうと一瞬で凍てつかせる事が出来ると言う。
ラヴィーネは見張りの兵士達を一瞥すると、特に何かを言うでも無く、ひたひたと歩いて行く。彼が床に足を付ければ、その部分は一瞬で凍り、足跡となって其処に残る。魔法使いの力の源とも言える精霊の力が強く作用している為に、彼の周囲は常に真冬の様だった。


「兄貴!」


与えられている自室へ戻るべく、廊下を歩いていると、進行方向からグルートとレーレが小走りでやって来た。二人の姿を見て、それまで眠たげにも見えたラヴィーネの瞳は軽く見開かれ、驚きの色を見せる。


「グルートと……レーレ?」
「兄貴! おっかえりィ!」


弟二人に出迎えられるとは思っておらず、確認する様にその名を呼ぶと、先に駆け寄ったグルートが満面の笑みを浮かべながら両手を広げ、抱き着いて来た。勢い余って後方に倒れそうになるが、グルートがその身を支えながら踏ん張る事で何とかその場に踏み留まる。自らが宿す属性故に、そんなに強く抱きしめては寒かろう、冷たかろうと思うものの、グルートは気にした様子も見せず、ぎゅうぎゅうと抱き締めた。
暑苦しいんだか寒々しいんだか。グルートの後に続いてきたレーレは、目の前で抱き合う兄二人の姿を見て、何とも言えない表情を浮かべた。


「大丈夫か? どっか怪我してねえか?」


一頻り抱き締め、満足したのか。グルートはラヴィーネの身を解放し、代わりにその両肩を掴み、様々な個所を凝視する。


「国境地帯のコウジョウセンに参加したんだろ? やべー奴は居なかったか?」
「うん」
「宮廷魔導師とか、なんだ、ほら、あの……エゼルなんとか! アイツとはやってねえか?」
「会わなかった」
「こき使われてねえか? またあの陰険野郎に酷いことされなかったか? それから……」
「……兄さん、ちょっと」


過保護としか言えない、兄に対するグルートの態度を見かねたか。レーレが苦笑いを浮かべながら制止に入る。
本当に血を分けた兄弟なのか、それともただ同じ生体兵器であることからの同族意識か。本当の所は分からない。しかしグルート、レーレ、ラヴィーネは其々を愛し、尊重し、依存し合う仲だった。特にグルートのラヴィーネに対する執着は兄弟愛を通り越した域に達しており、過保護と言っても過言でない状態だった。今までそれが悪い方面に向かった事は無いものの、同じ兄弟であるレーレは兄二人の事がただただ心配だった。


「……だいじょうぶ、だよ」
「…………っ」


グルートとレーレ、二人の胸中を察したのか、ラヴィーネは微笑み、無傷である事を告げる。それでも未だ納得できないのか、何か言いたそうにしているグルートに片手を伸ばし、少し背伸びをしながらその頭を撫でてやった。兄に頭を撫でて貰った事が一瞬分からず、グルートは呆けた様な表情を見せるも、直ぐに撫でられた部分を自らの手でなぞり、僅かに顔を赤らめた。




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