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「あー……あの野郎、容赦なくボコボコやりやがって」
「でも今回は兄さんも悪いよ」
「あ? お前、アイツの肩持つのか?」
「そうじゃないけど」


納得が行かない様子のグルートに対し、レーレは困った様に笑いながら頭を振った。グルートは能力と体躯に恵まれているが、残念ながらオツムの方が少し足りない。言いつけを守らない――と言うより忘れてしまう――せいで、毎回の様に問題を起こし、周囲の者を困惑させる。最早仕方のない事だと、或る程度割り切ってはいたが、流石に今回は色々と不味かった様で。


「魔女達が動くなんて、相当だよ。兄さん、何したの?」
「知るかよ。ただいつもの様にザコを殴って燃やして……なんか良く分かんねえひょろひょろ共と戦って、腕切られて、その魔女が出て来た」
「うーん……」


グルートの話を聞き、レーレは口元に人差し指を当て、考え込む。説明がざっくりとし過ぎていて、何処から突っ込んで良いのかも分からない。本人としては、何時もの様に過ごしていたのだろう。ただ偶々、今回は対峙した相手が悪かったのか。もしかしたら、相手は魔女と関係のある者達だったのかも知れないと、レーレは踏まれた部分を擦るグルートを見ながら考えを巡らせた。


「まあ、次会ったらアイツら全員ぎったぎたにして燃やしてやるよ」
「それはダメだってば」


目には目を。歯には歯を。昔どこかの偉人がそんな事を言っていた様な気がするが。やられたらやり返すのが信条らしいグルートの台詞に、もう少し冷静に考えて行動して欲しいと。レーレは制止の言葉を投げ掛ける。まだ怒りが燻っている様に見られるが、変に動けばまた何かやらかしそうで正直怖い。自分が傍にいられれば良いのだが、立場が立場故、そうも行かない。
不機嫌な様子を隠そうともしないグルートに、この儘では芳しくないと思ったのか。レーレは話題を切り替えようと、思い出した様に声を上げた。


「そういえば、兄様がもうすぐ帰って来るって」
「兄貴が?」


その名を聞いた瞬間、グルートの表情が変わった。先程までの不機嫌さは嘘の様に消え、子供の様に目を輝かせ、居ても立っても居られないとばかりに部屋の出口に通じる扉の方を見る。


「今日は国境地帯の攻城戦に参加したんだって。結果は……うん、言うまでもないけど」
「マジか。出迎えてやらねーと。お前も来るだろ?」


大切な兄が帰って来る。それを弟である自分が出迎えない訳には行かない。大きな体に似合わぬ無邪気な笑みで言い、当然レーレも来るだろうと手を掴んで引っ張ろうとする。しかしレーレは申し訳ないとばかりに眉を下げ、掴んで来る手を離して貰おうと掴まれていない方の手を持ち上げる。


「行きたいけど、議事録を書かなきゃいけないから」


生体兵器でありながら、優れた知能を持つレーレは帝国軍の参謀でもある。今いる部屋に来るまでは別の所で軍議に参加しており、その進行役を担当していた。常に自由に国内外を歩けるグルートと異なり、やらなければならない事が山ほどある。
大切なもう一人の兄に会いたい気持ちはあったが、其方を優先しなければならないのだと。目の前のグルートを諭して見るも、彼がそれで大人しく引き下がる事は無かった。


「そんなもん後でいいだろ。兄貴の方が大事だ」
「いや、それは……」
「つべこべ言ってねーで行くぞ、おら」
「だから、ちょっと……ええ」


大切な軍議の議事録がそんなもん扱いとは。グルートの横暴な態度に一瞬目を見開くも、これが自分の兄であったと、レーレは今更の様に思い出す。掴まれた腕を振り払う事は出来ず、引っ張られてしまえば結局それに従う他無く。
そうして捕まったレーレはグルートと共に部屋を後にし、兄が戻って来るだろう別の部屋に向かった。




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