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数週間ぶりに見る相棒の姿にジェレマイアは驚き、ニュクスは普段と何ら変わらぬ態度で片手を上げて応える。


「いつ復活したんですか」
「昨日」
「ええ……連絡して下さいよ」
「悪いな、端末がぶっ壊れてんだ」


暴君との戦闘中に端末は懐から零れて地面に落ち、炎に巻かれ炭と化した。それに気付いたのは蘇生してからだった為、新しい端末を手に入れるまでは直接会うしか連絡を取る手段が無い。尤も、気付いていたとしても死んでいる最中に新しい端末の準備を誰かに頼んでおくなんて事は出来ないが。


「……で、今どうなってんだこれ」


目の前に展開されているバリケードと、その先にある銀行の建物を交互に見て、ニュクスが訊ねる。マスターからは銀行に押し入った強盗グループの鎮圧と聞いた。そして、膠着状態になっていると。ジェレマイアの戦闘能力を以てすれば余程の事が無い限り直ぐに片付くと思ったが、実際はそうではない様で。


「あー……普通に制圧しようと思ったんですけど、向こうが人質を取ってて……その」
「下手に動けなくて睨み合いになってる?」
「そう言う事です」
「ふうん」


ジェレマイアの説明を聞き、ニュクスは納得したのか短い相槌を打ち、腕を組む。慎重なジェレマイアの事だ。被害を最小限に留めたいが為に、最善の策を見付けようと必死だったのだろう。面倒になると短絡的な思考になりがちな自分には無い堅実さ。そこは見習いたいものだと、ニュクスは密かに思った。


「何時までも睨み合いしててもしょうがねえだろ」
「それは、そうですけど」


他に打つ手があると言うのか。ジェレマイアは困惑し、ニュクスに意見を求める。人質を死なせる訳には行かない。だが撤退と言う選択肢も無い。どうするのが最善か。分からないからこうしているのだ。
ジェレマイアが言わんとしている事を理解しているのか、ニュクスはふんと鼻を鳴らし、バリケードの隙間を縫って前に出る。バリケードを形成していた治安部隊の隊員達はそんなニュクスの行動に驚き、中には制止しようと声を上げる者もいた。けれどニュクスがその声に耳を傾ける事は無く、銀行の建物に向かって一人で歩いて行く。


「あ、ちょっと、ニュクスくん!?」


下手に相手を刺激しない方が。そう言おうとしても、ニュクスは既にバリケードの先へと進んでおり。慌てて後を追おうするも、建物の方から銃弾が飛んで来ればそれに怯み、その場に屈み込む。
治安部隊の隊員達も『戻って』『下がれ』と指示を出すが、ニュクスは聞く耳を持たない。何か考えがあるのか、それとも何も考えていないのか。建物に籠城している強盗集団は近付いて来るニュクスに罵声を浴びせ、人質がどうなっても良いのかと脅しを掛けて来る。


「人質とか知るかよ」
「……はい?」


背を向けた状態でニュクスが言い放った言葉に、ジェレマイアと治安部隊の隊員達が固まる。何を言っているのか理解できない。否、言葉の意味は分かるが、何故そう言ったのかが分からない。


「どうせ強盗共も、人質取ったがその儘逃げるに逃げれなくて悩んでるんだろ」


不用心に近付くニュクスに向けて、建物の中から幾つもの銃弾が放たれる。しかし、銃使いであるニュクスに銃弾が効く筈も無く、その身に迫った銃弾は無力化して地に落ち、外れたものは後方のバリケードの盾に当たり、弾ける。
銃撃をものともせず近付いて来るニュクスを見て、強盗達が更に口汚い言葉を投げつけて来る。てめえ、何で撃たれても平気なんだ。これ以上近付くんじゃねえ。人質がどうなっても良いのか。お決まりとも言える台詞が幾つも飛び出るが、ニュクスは耳を傾ける事無く前へと進む。




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