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「……どうしましょう、これ」


南エリアでは比較的治安が良いとされる大通り。
其処にある大手銀行の支店から数十メートル離れた所で、ジェレマイアは途方に暮れていた。目の前には治安部隊によってバリケードが築かれており、外からは一般人が入れない様に、また内からは犯罪者が出られない様にしている。包囲網としては完璧。しかし、既にそうなってから何時間も経過しており、事態の収束には至っていない。
事件が起こったのは、昨日の夕方。一日の業務を終え、従業員達が店を締めようとした所で、強盗グループが押し入り、店内を占拠した。目的は勿論、其処に集められている現金。従業員達は抵抗したが、武装した強盗グループに叶う筈も無く、人質として拘束された。その直前、一人が外部にSOSを発信した為、暫くして治安部隊が現場に駆け付けた。


「人質取られてますからねー、こういうのって説得するしか無いんですけどねー」


ジェレマイアの隣に座り込んでいた、治安部隊のリーダーである青年が間延びした口調で言い、笑う。強盗グループは店内に立てこもった儘、動く気配はない。何度か拡声器を使い、呼びかけては見たものの、返って来るのは汚い罵倒の言葉のみ。更に人質を盾にし、此方に撤退を要求して来た。其処から互いに一歩も譲らぬ睨み合いがずっと続いている。ジェレマイアが応援として来た時には既にそうなっており、人質を取られている状況では下手に突撃する事も出来ず、其の儘治安部隊に混ざって睨み合いに参加する形となった。


「あの建物、裏口とか無いんですか?」
「あるんですけどねー、カギが掛かってるんですよー」
「はあ」
「指紋認証なのでボク等じゃ開けられませんしー」
「ええ……」
「無理やり突撃しても良いんですけどー、銀行の偉いヒトが出来るだけ犠牲は出したくないって言っててー、人質が生きてなきゃいけないみたいな雰囲気でー」


つまり現状、どうしようもない。此処で撤退すれば強盗達は現金を持って逃走、突撃すれば人質の命の保証は無い。そうなれば説得しかないのだが、それで解決出来る様な相手ならば南エリアの治安はもっと良くなっている筈だ。


「なんかこうねー、透明人間になって忍び込むみたいな能力持ってる人がいればねー」


探せば、そう言う能力を持っている異端者がいるかも知れない。ただ、今から探せば何時見つかるかも分からないし、仮に見つかったとして協力してくれるとも限らない。けらけらと笑う青年にジェレマイアは深い溜息を吐き、治安部隊が用意してくれた小さな簡易椅子に腰を下ろす。


「ニュクスくんだったら、どうしますかねえ……」


今此処に居ない相棒の名を口にし、考える。こう言う場面は己よりもニュクスの方が手馴れている。彼が隣に居れば、何かしらの打開策を見出してくれるのではないかと。ジェレマイアは思った。けれど彼は今『死んでいる』。身体の損傷具合が酷く、蘇生には普段よりも時間が掛かるだろうとシトリーには言われていた。それでも、そろそろ復活してくれても良いのではと、其処まで考えた所で、銀行の建物から立てこもっている男達の怒声が飛んで来た。


「ひえっ……」
「あー、あちらさんも焦れて来ましたかねー、まずいですねー」


いい加減にしろ、さっさと引っ込め、治安部隊の出る幕じゃねーんだよ。ドスの利いた男達の声にジェレマイアが身を竦ませた所で、青年が再び間延びした調子で言い、腕を組んで首を傾げる。まずいです、と言う割には緊張感がまるで無い。


「ま、まずいって思うなら何とかしましょうよ……」
「そうは言いますけどねー、ボク達の力じゃこればっかりは……――おや?」


ジェレマイアと青年が話していると、彼等の後方から治安部隊の隊員の驚く様な声が上がった。どよめく様なそれにジェレマイアと青年は顔を見合わせ、其方の方へと振り返る。


「んだよ、派手にやり合ってるのかと思ったら睨み合いか」
「は、え……っ?」


隊員達を押しのけ、強引に前へと進むのは、黒衣を纏った長い銀髪の。


「ニュクスくん!?」
「よう」




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