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「……まあ、取り敢えず。仕事を紹介してくれねえか? 手っ取り早く受けられて、報酬も悪くなくて、鬱憤晴らせそうな奴」
「お前それ結構ハードル高いって分かってるのか?」


ニュクスが投げて来た要求に、マスターは呆れた様子で返し、カウンター内に置いてある中型端末を開き、立ち上げる。慣れた手付きで操作をし、一応はニュクスの出した希望に叶うものがあるかどうか検索を掛ける。


「ああ、そう言えば。昨日ジェレマイアが単独で請け負った仕事があったな」
「アイツが?」


検索の途中で思い出した様にマスターが言い、相棒の名を聞いたニュクスが僅かに目を細める。ジェレマイアが単独で仕事を請け負う事は余り無い。彼は臆病な性格で――見栄っ張りなので必死にその一面を隠そうとはしているが――血生臭い現場が得意でない為、ニュクスの仕事に同伴するケースが殆どだ。
そんな彼が、昨夜仕事を斡旋して貰い、一人で現場に向かったと言う。珍しい事案に、ニュクスは意外だとばかりにマスターを見、首を傾げた。


「お前が死んでる間、仕事していなかったからな。流石に懐が厳しくなったんだろう」
「……あー」


成程、と。ニュクスは納得し、苦笑する。ニュクスが蘇生するまでに掛かった三週間。仕事を何もしていなかったと言うのであれば当然、財布の中が寂しくなる。時期的に、家賃の支払い等もあるだろう。働かなければ収入は無い。払う金が無ければどうなるかは、言うまでもない。


「内容は南エリアの銀行に強盗に入った集団の鎮圧だ。良く引き受けたと思うが」
「本当にな」
「現場は膠着状態で、今も睨み合いが続いている様だ」


ジェレマイアが請け負った仕事の内容を端末画面に映し、ニュクスにも見える様にそれを持ち上げ、彼の方へと向ける。中立都市でも有名な大手の銀行。その支店に、数人グループの強盗が押し入り、立てこもっている。死者はまだ確認されていないが、怪我人が複数出ており、珍しく南エリアの治安部隊が出動していると。
はっきり言ってジェレマイアには向かない内容だった。魔法使いとしての実力は高いが、メンタル面が脆く、暴力沙汰は苦手。彼の事だから、武力行使は望まず、平和的な解決をしようとしている筈だ。しかし、いきり立つ強面な強盗達に交渉を持ち掛け、そこまで持って行くだけの能力が彼にあるかと聞かれれば首を捻る所である。


「依頼主……銀行の会長は一刻も早い解決を望んでいる。ヘルプに行くか?」
「報酬は?」
「悪くねえな」
「なら行く」


上手く行けば、鬱憤晴らしも出来そうだと。寧ろ上手く行かなくても鬱憤晴らしをしてやろうと。ニュクスはにたりと笑い、ジェレマイアの仕事に加勢する意思を告げる。ぐっと親指を立てる姿にマスターは頷く代わりに嘆息し、端末の画面を自らの方に戻し、ニュクスの――受注者の追加をするべく入力を始めた。


「暴れるのは、ほどほどにしておけよ」


多分、きっと――否、間違いなく。ニュクスは周囲の事も気にせずやりたい放題暴れるだろう。それこそ、慣れない一人の仕事に奮闘するジェレマイアのそれまでの努力を水の泡にする勢いで。


「努力はする」
「……ジェレマイアを泣かすなよ」
「それはアイツ次第だ」


マスターの忠告にニュクスは笑いながら片手を上げて応え、月桂樹を後にした。




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