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翌日。
正午を回り、空にある太陽が僅かに西へ傾いた刻に、ニュクスは目覚めた。
昼食を済ませ、様子を見にシトリーが部屋を訪れると、ちょうどベッドから身を起こすニュクスと目が合った。寝起きでぼんやりしているのか、瞳は半分伏せられ、不機嫌そうにも見える。


「……目が覚めたか」


起きたばかりでまだ意識がぼんやりとしているのだろう。シトリーが声を掛けても、ニュクスは何も言わず起きた先にある壁を見詰めていた。


「俺はどれだけ眠っていた」


数秒の沈黙の後。ニュクスは低い声でシトリーに問い掛ける。


「三週間位だな」
「…………」


蘇生し、目覚めてから毎回の様に、ニュクスはシトリーに自らが眠っていた期間を聞く。死んでいる間の『空白』が気になるのだろう。中立都市の、特に南エリアの世情は目まぐるしく変化する。例え数日であっても、空白――情報の無い期間はニュクスにとって痛手であった。空白の間、其処で何が起こっていたのか、ニュクスは知る必要があった。
そうして教えられた期間は、思っていたよりも長く。死んだ時の肉体の損傷状態によって蘇生するのに要する日数が変化するのは知っていた。二週間程度だと思っていたのに、まさか三週間も。突きつけられた現実に、ニュクスはぎりりと奥歯を噛み締めた。


「荒れるのは構わないが場所は考えろ。部屋を壊されたら困る」


鬱屈した思いを爆発させ、暴れ出しそうな雰囲気を察したか。シトリーは釘を刺す様にニュクスに言い、片手を伸ばすと無造作にその頭を撫でる。不貞腐れた子供をあやす親のそれに似た動作だが、その様な行為でニュクスの苛立ちが治まる筈も無く。乱暴な動作でニュクスはシトリーの手を払いのけ、自身の身に掛けられていた毛布を剥がすとベッドから降りようと動き出した。


「嗚呼、クソ。腹が立つ」
「無闇に挑んでも返り討ちだろう。何か対抗策を考えないと」
「んな事分かってる」


分かってはいるが、どうしたら良いか分からない。淡々とした調子で言葉を紡ぐシトリーに対し、ニュクスは吐き捨てる様にして言って返した。此処最近、暴君グルートの存在は、ニュクスが死ぬ主な原因となりつつある。何としても雪辱を晴らしたいが、ニュクスは異端者で、相手は魔法使いだ。既にそれだけで相性が悪いと言うのに、グルートの属性は炎である。銃弾を溶かす程の高温を孕む炎に、どうすれば対抗出来ると言うのか。仮に異端や魔法の要素を差し引いたとしても、生体兵器のあの身体能力に勝てる要素は無い。
このまま終わるつもりは無い。しかし、現段階では勝てる見込みがまるでない。何か良い策は無いかと考えてみるも、そう簡単に答えは出ない。


「レライエが、暴君について調べてみると言っていた」
「……アイツが?」
「ただの気紛れだと思うが、何かあったら教えると」
「…………」


正直、あてにして良いか分からない。確かにレライエのカラスの能力は万能で、情報収集も簡単に出来るだろう。ただ、それによって得られた情報を、果たしてレライエが正確に、嘘偽りなく教えてくれるのか。能力は信頼出来るが、能力を行使する本人に難があり、信じようにも信じられない。


「まあ、何も無いよりは良いだろう?」
「それはそうだけどよ……」


期待はしないでおこうと。もし何か情報が入れば僥倖くらいに思う事にし、ニュクスは部屋の隅のクローゼットへと向かう。その中にある、シトリーが既に用意してくれていた馴染みの黒衣に袖を通し、身なりを整えると、今日まで世話をしてくれたシトリーに礼を言うべく、彼の方へと向き直った。


「手間を掛けさせたな」
「そう思うなら、もう少し死なない努力をして貰いたいものだ。 ……これから何処へ?」
「取り敢えず、マスターの所だな。情報収集と、憂さ晴らしが出来る仕事を探しに、さ」


ニュクスの言葉を聞き、シトリーは納得した様子で頷く。相当、鬱憤が溜まっているだろう。このまま何時も通りの生活に戻るのは、ニュクスの性格を考えれば難しい事だ。


「じゃあな」


真新しい服に袖を通し、体に馴染むのを確認して。ニュクスはシトリーに片手を振り、部屋を後にした。




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