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「どう、なんでしょうね……」


此処では秘密や謎の一つ二つ当たり前。そう思い、今まで気にしていなかったが。探れば探るほど、気になる事が増えて行く。もしかしたら、ニュクスは人間ではない、超常的な『何か』なのかも知れない。神様だとか、伝説の生き物だとか。そんなものは信じていないが、それに似た存在と言った方が、彼の不思議な要素に対し納得がいく。
そんな事を考えていると、不意にリュウトが何かを観察する様にジェレマイアの顔を覗き込んだ。


「な、なんですか?」


至近距離に迫るリュウトに気付き、ジェレマイアが戸惑いの声を上げる。リュウトは互いの鼻と鼻が触れ合いそうなほど近付き、凝視している。そうして垂れ気味の目を細め、軽く眉を寄せ、小さく唸る。小難しい表情、と言うのだろうか。普段何も考えていない様な、だらしのない顔をしている彼にしては、らしくない表情である。


「いやあ、見る位置で色が変わったりとか、しねーよなあって」
「はい?」


言いながらリュウトは身を動かし、ジェレマイアの瞳を様々な角度から眺め見る。正面から始まり、右から左へ、上から下へ。顔を傾けて斜めにも見てみる。そんな彼の言動が理解できず、ジェレマイアは間の抜けた声を上げた。


「銀月の目ってさ、いろんな色になるじゃんよ。角度とか、光の当たり方っつーの? そーいうので」


にへ、と笑いながらリュウトはニュクスの目について語る。そしてそれを聞き、ジェレマイアは今此処に居ない相棒の顔を思い浮かべ、どうだったかと考える。
ニュクスの目の色は、青だった――と思う。断言できないのは、リュウトの言う通り、その時その時で様々な色に変化していた気がするからだ。朝日を浴びた時は緑。夕日に照らされた時は橙。月明かりの下では赤だったし、暗がりの中では紫だった。
普通、人間の目の色は一色のみで、光の加減で多少の変化はするものの、精々類似色に見える程度である。地域によって珍しい虹彩を持つ者や、オッドアイと呼ばれる目を持つ者もいるが、何れも人間の枠に留まる。


「…………」


そういえば何時だったか、宝石みたいに綺麗だからと、ニュクスの『目』を狙って来た者がいた。その時は特に気にする事も無かったが、今思えば、その人物はニュクスの七色に煌く瞳の美しさに心を奪われていたのかも知れない。


「マスター、ニュクスくんって……何者なんでしょうね」


ユリシーズが疑問とした事を、ジェレマイアは改めて口にする。やはり彼は自分達とは何かが違う。自分達の常識の範囲から、彼は外れてしまっている。探れば探るほど、人間離れした要素が目につく。異端者の中の異端者、とでも言うべきか。


「知らん」


ジェレマイアの問い掛けに対し、マスターはつっけんどんに言って返し、リュウトの前にある、空になった酒瓶を取り上げる。リュウトは『もう一本飲みたい』とねだるが、マスターは『金がないなら諦めろ』と窘めた。


「生き返ったら、直接聞いてみるんだな」
「あー……そう、ですね……そうします。はい」


今のところ、あれこれ考えるよりもその方が確実だろうと。マスターの言葉にジェレマイアは浅く頷き、会計をする為に席を立った。




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