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「大体、お前に任せると碌でも無い事になる。 ……さて、作業は終わった。部屋に移すぞ」


碌でも無い事、とはどう言う事なのか。ジェレマイアは疑問に思うも、何となく予想が出来た。女装趣味のレライエの事だ。化粧も女性らしいものを施すつもりなのだろう。普段の仕事の際は知らないが、蘇生するニュクスには或る程度自由が利くと思っている筈だ。


「それじゃあ、行こうか」


ベッドの移動はシトリーがするらしく、足元のブレーキを外し、手すりを握る。レライエは部屋の扉を開け、ジェレマイアとユリシーズについて来る様に目配せをし、先導する様に先に出て行った。


「……葬儀屋って、大変なんですね」
「死者を弔う仕事だ。決して楽では無かろうよ」
「ええ、僕にはとても出来ないお仕事です」


廊下を歩いて行く最中、ベッドに横たえられているニュクスの顔を眺めながら、ジェレマイアとユリシーズは言葉を交わす。中立都市では最も強い勢力とされる葬儀屋。彼等の仕事ぶりは日頃から小耳に挟んでいたが、間近で様子を見るのは初めてだった。常に死と隣り合わせの日常を送っている為、死生観が麻痺しつつあったが、矢張り死と向き合うと言うのは、重い仕事であると。ジェレマイアは思わざるを得なかった。


「……一つ、疑問が有るのだが」


客室の一つである部屋の扉を開け、中に入ると、其処に置かれていたベッドへニュクスの身を移し、一連の作業を終える。
その様子を見届けた所で、ユリシーズが口を開いた。疑問、とは一体何だろうか。葬儀屋の仕事に関しては或る程度知識が有る様に見えたが、そんな彼でも疑問に思う事が有るのだろうかと。ジェレマイアは不思議そうにユリシーズの方を見遣り、シトリーとレライエもまた、ベッドから視線を其方へと移す。
しかし、ユリシーズが疑問としたのは、葬儀屋の仕事では無く、今此処で眠っているニュクスについてだった。


「彼は、異端者で間違いはないかね?」
「は? そんなの分かり切った事じゃないですか」


何を今更。馬鹿でも分かる事を聞いているのか。ユリシーズの考えている事が理解しかねると、ジェレマイアは怪訝そうな面持ちで彼を見る。シトリーとレライエもまた、不思議そうにユリシーズの方を見ていた。


「では、彼の異端の力は……銃を操る?」
「ええ、そうですけど」


これもまた分かり切った質問だ。既に何度も見ている筈である。何も無い所に銃を生み出し、握り、発砲する。銃身は白銀。種類も豊富で、状況に応じて使い分ける。そして、銃を操る異端者であるが故に、他者の銃弾は効かず、彼に向けて放たれた弾は全て当たる直前に力を失い、地に落ちる。


「妙だね」


当然の答えを聞き、ユリシーズは片手を口元に添え、首を傾げた。


「異端者の能力は一人一つの筈だが」


異端者と呼ばれる存在は、不思議な力を一つだけ持っている。能力の種類は千差万別で、日常生活に役立つ程度の小さなものから、戦闘で優位に立てる強大なものまで幅広い。生まれた時から能力を使える者もいれば、年老いて初めて使える様になる者も居る。そして、異端者となった者は魔法使いにはなれず、魔法使いとなった者もまた、異端者になる事は無い。理由ははっきりしないが、自然界の精霊が異端の力を忌避しているからではないかと言われている。
世間に浸透している常識。それを確認する様に告げるユリシーズに、三人の視線が注がれる。何が言いたいのか。何を疑問に思う事があるのか。黙ってその先の言葉を待った。

そして。


「何故彼は、死んでも生き返るのかね?」
「……あ」


当たり前の様に受け入れている事実が、異常である事を知らされた気分だった。
否、実際に異常であった。ユリシーズの言う通り、異端者は一人一つしか能力を持たない。しかしニュクスは『銃使い』であり、同時に『死んでも蘇生する』能力を持っている。後者を能力と言って良いかは分からないが、普通の人間では有り得ない事であり、異端者の力であると言われれば納得出来るものである。


「性別も両性と聞いたが。任意で性を変えられる人間等、見た事が無い」
「……そう言えば」
「そうだったね」


基本は男性だが、ニュクスは自らの意思で女性になる事が出来る。先の二つの能力に比べ、見る機会が少ない為、今の今まで忘れていたが。シトリーとレライエは思い出した様に頷き、互いに顔を見合わせ、困惑する。雌雄同体、両性具有。ニュクスの場合、どちらにも当てはまる様で、どちらにも当てはまらない。男性であり、女性である。ニュクスの性別は『両性』としか言いようが無い。
銃を操り、死んでも生き返り、性別を自由に変えられる。思い付くだけでもニュクスにはこの三つの『不思議な要素』がある。一つだけならばただの異端者として片付けられるが。三つとなると異常である。ユリシーズが感じている疑問は尤もだ。


「私が言わんとしている事が分かるだろう。彼は『何者』なのかね?」


ニュクスの遺体を運んでいた時や、処置を施していた時よりも重い沈黙が四人の間に流れる。
ユリシーズの質問に答えられる者は、誰一人として居なかった。




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