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シトリーに招かれる儘、教会の中へ入ったニュクスは客室である小さな部屋へ通された。


「紅茶を淹れるが、砂糖とミルクは要るか?」
「どっちかっつーとコーヒーが飲みてえんだがな?」
「アポ無しで来て我儘を言うな」


部屋の片隅に有るケトルを手に取り、シトリーがソファに腰を下ろしたニュクスに訊ねる。
手入れの行き届いた、柔らかな材質のソファへ無遠慮に座り、背凭れに身を沈めたニュクスは自らの要望を告げるも、シトリーはそれをあっさりと却下した。予想通りの反応だったが、相変わらず頭が固く愛想の無い奴だと。ニュクスは目の前で紅茶の準備を進める様子を眺め、苦笑した。


「仕事、してきたのか」
「ああ。あれから直ぐにな。何とか終わったが、酷い目に遭ったぜ」
「……だろうな。お前の体から獣の臭いがする。まぐわいでもして来たのか?」
「きっつい冗談を言ってくれるじゃねえか。んな訳ねえだろ」


温めたカップに紅茶を注ぎ、ソーサーへ乗せ、更にそれをトレイに乗せて運んで来る、その一連の流れの中で紡がれた言葉に、ニュクスの口元が引き攣った。
シトリーの言う『獣』とは、生体兵器の事だ。鼻の良い彼はその臭いを敏感に察知し、嗅ぎ取ったのだろう。そして、彼なりに気を利かせ、冗談のつもりで聞いたのだろうが、ニュクスにとってそれは笑えないものだった。生体兵器に良い思い出は無い。出会うと大体酷い目に遭うし、最悪殺される。何とかしたい所だが、文字通りの化け物である彼等に対し、有効な策は今の所見つかっていない。


「そう言えば、アイツは今出掛けてんのか?」


自分にとって不都合である話題から話を切り替えようと。テーブルの上に乗せられるカップとソーサーを見ていたニュクスは思い出した様に顔を上げ、シトリーに向き直った。


「いや、まだ此処に居ると思うが」
「珍しいじゃねえか。この時間ならもう飯を食いに行ってると思ったが」


アイツ、と称される存在が誰か。既に分かっているシトリーは、ニュクスの向かいにあるソファへ座り、自分用に淹れた紅茶を手に取り、言葉を返す。己と良く似た容貌を持つ、双子の兄弟。この教会のもう一人の主であり、シトリーとは対照的に生活スタイルが昼夜逆転している、癖のある青年。


「会いたいなら今から呼んで来るが」
「別段会いたいとは思わねえな」


カップの端に口を付け、音も無く紅茶を飲み、一息吐く。咥内に広がる紅茶の香りに気持ちが安らぐのを感じるも、シトリーが訊ねて来たそれに口の端が不自然に歪んだ。
彼の青年は目の前に座っているシトリーと見た目こそ似通っているものの、その性格は全く異なり、どちらかと言えば苦手なタイプだ。それこそ『襲われた』事もある。用が無ければ接触を避けたい存在だ。

しかし。



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