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南エリアの外れには、小さな墓地が有る。
居住区から離れ、雑木林を抜けた先。人目を避ける様にひっそりと存在する其処は昼間でも薄暗く、重い空気が漂っている。入り口である格子の門を潜ると、規則的に立ち並ぶ墓石達がまず飛び込んで来る。つい最近立てられたものから、大分風化した古いものまで、形状は様々だ。しかし、全て手入れが行き渡っており、直ぐ傍の花壇には常に綺麗な花が咲き、風に靡いて揺れている。

日が沈み、夜も更けて来た刻。ニュクスは先の仕事で得た報酬の一部を手に、その地を訪れた。
だが、用が有るのは墓では無い。目的は墓地の奥に佇む教会。其処に住まう者に会う為に、ニュクスは一人でやって来た。錆びかけた門扉を開け、静まり返った墓地を速足で抜け、建物の前へと辿り着く。固く閉ざされた扉のノッカーを掴み、幾度か叩いて反応を待った。
数秒の沈黙の後、扉は解錠され、軋んだ音と共にニュクスの目の前でゆっくりと開いた。


「……何だ、お前か」


開いた扉の奥から顔を覗かせたのは、ニュクスが良く知る青年だった。肩まで伸びる金色の髪に、深海を思わせる蒼い双眸。膝下まで隠れる修道服を身に纏い、右耳に鎖で繋がれた十字架を下げた、無愛想な教会の主。


「よぉ、シトリー。この前の不足分、持って来たぜ」
「こんな時間に誰かと思えば……もう少し早く来れなかったのか?」


名を呼ばれた青年――シトリーは、ニュクスの挨拶に対し溜息混じりに言葉を返した。日付はまだ変わっていないが、早い者なら既に床に就く時間帯だ。シトリー自身もそろそろ休もうと思っていたのだろう。言葉の端に滲む不満の色に、ニュクスは僅かに苦笑した。


「あー、悪いな。文句だったらジェレマイアに言ってくれよ。アイツの所為でシャワーを浴びる時間が普段の倍以上になっちまったんだから」


日中に請け負った仕事の際、戦闘で大量の返り血を浴びたニュクスは、街に戻ってから直ぐに自宅へ戻り、シャワーを浴びた。
新調したばかりのコートは血塗れで使い物にならなくなり、破棄せざるを得なかった。勿体ないとも思ったが、こればかりは仕方が無い。髪に染み込んだ血を時間を掛けて洗い流し、自宅にあったストックのコートを羽織った。
こうなってしまったのはジェレマイアの所為だが、彼の助力が無ければ己は生きていたかも分からない。本当なら文句は言うべきでは無いのだが、ニュクスは悪びれた様子も無くシトリーにそう言い、笑いながら肩を竦ませた。


「……取り敢えず入れ」


彼の話す事情には微塵の興味も湧かない。シトリーは何も言及せず、小さな声でそれだけ言い、扉の中へ彼を招き入れた。


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