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「……って、なんだ。いつかの男女じゃねえか。何で生きてんだ?」


男は生み出した炎を散らし、攻撃して来た存在を確認するべく、ニュクスの方を見遣る。そして、その姿を確認するや否や、少し驚いた様に目を見開き、直ぐに喜悦の色を滲ませ、歪める。再会を喜ぶ、と言うよりは壊したと思った玩具が戻って来た。そんな風に取れる笑みだった。
その笑みを見た瞬間、最後に殺された時の記憶が蘇り、恐怖と嫌悪、憎悪が同時にニュクスの中に湧き上がった。帝国が生み出した最高傑作だか何だか知らないが、身に受けた屈辱は倍にして返さなければ気が済まない。男女、と呼ばれたのも何だか癪に障る。ニュクス自身の性別を言及すれば強ち間違いでは無いが、今はそれについてあれこれ考えていられる状態ではない。


「テメエがそれを知る必要は無ぇな!」


手に持っていた銃を霧散させてから、今度は両の手に機関銃を発現させ、握り込む。戦闘の際は常に冷静でありたいと思っていたが、怨敵を前にすればそれも殺意に塗り潰され、抑えが利かない。一般人が居れば巻き込み必至の状態であったが、幸いと言うべきか――被害を受けた者は不幸だが――其処に居た者達は皆、ニュクスが来る前に男によって炭にされた。今此処に居るのは、ニュクスと男の二人だけだ。何も遠慮する事は無い。多少、周囲の建物に傷が付くかも知れないが、闘争の多い南エリアではその様な事は日常茶飯事。寧ろ破壊では無く、傷が付くだけならば安いと言えよう。


「おいおい、それで攻撃してるつもりかよ?」


立て続けに放たれる機関銃の弾は、兎に角当たれば良いと思っているのか。狙う精度は先程よりも粗く、主に男の胴体目掛けて飛んで行く。しかし、弾幕となったそれも再び男が生み出した炎の壁によって阻まれ、彼の身に届く事無く溶けてしまった。一瞬にして高温の炎を生み出す能力は、異端でも魔術でも無い。彼が生体兵器の最高傑作と言われる所以、魔法使いの素質だ。そしてそれは、ニュクスの能力と非常に相性が悪い。


「くっそ、舐めやがって……!」


男はニュクスの銃撃を受けても動じる事無く、悠然と立っている。ニュクスの攻撃――銃撃など、自らの能力を以てすれば恐れるに足らぬと。そう言う事なのだろう。その余裕たっぷりな姿に、ニュクスは苛立ちを募らせ、弾幕を張り続ける。拳銃、機関銃、狙撃銃、散弾銃――手に握る銃身を次から次へと変化させ、ニュクスは男との距離を詰めるべく駆け出す。異端者の能力である為、弾数を気にする必要は無いが、無暗に撃つだけでは彼の炎で溶かされてしまい、意味が無い。ならばどうするべきか。考えた末に思い付いたのが、炎に阻まれない距離での攻撃だった。超至近距離での発砲。それならば、炎を出す間も無く彼の身を撃ち抜く事が出来る。そう思い、ニュクスは地を蹴った。


「学習能力っての? 相変わらずねーんだな。見てくれは良いのに中身はぱっぱらぱーか。救えねー」
「吹いてろよ、クソッタレが――!」


小馬鹿にした様に言って来る姿が気に入らない。何とかしてその脳天に一撃を入れたいと。ニュクスは全力で走った。しかし、迫り来るニュクスを見ても男は余裕を崩さず、寧ろ獲物が近付いて来るのを待つ捕食者の様な佇まいで居た。余程自信が有るのだろう。否、過去に何度もニュクスを殺している男だ。負ける要素等、何処にも無いと思っているのだろう。
互いの距離が残り数歩となった所で、ニュクスは最後に発現させた散弾銃を霧散させ、代わりに最初に握っていたものよりも大きな拳銃を手中に生み出して見せた。銃身は装飾の無い、シンプルなもの。リボルバー式となっているそれは、一発で装甲車の装甲を簡単に抜いてしまう威力を持っている。使い勝手はともかく、当てれば如何に生体兵器と言えど、無事では済まないだろう。見てくれが気に入らないと言う理由で普段は滅多に使用しないが、今回ばかりはその様な事に拘ってはいられない。


「…………、何かその鉄砲見た事あるな。ちょっとやべー奴じゃねえ?」


ニュクスの取り出した拳銃を見て、男は漸く表情を変化させた。見た事が有る、と言うがニュクスがこの拳銃を彼に対して使用するのは初めてだ。ならば一体何処で見たのか。恐らくは、彼を生み出した帝国内。軍事国家となっているあの国ならば、威力を追求した銃が有っても不思議では無い。




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