5

「ふぅん。そんなハッカーが出て来てたんだ」


ユリシーズの話を聞き、机の上に置いてある自らの中型端末に視線をやりながらレイは頬を掻いた。


「知己が手を焼いている様でね。貴公なら何とか出来ると思ったのだが」
「うーん」


月桂樹のマスターが言っていたハッカーは相当厄介な存在だ。
今の所南エリアのみで活動しているらしいが、何時この東エリアに手を伸ばして来るかも分からない。中央エリア程では無いが、この東エリアにも中立都市内で重要なネットワークを管理する場所が幾つもある。もし襲撃を受ければ、日ごろから多くの電子機器に頼っている人々の生活に支障を来してしまう。危険因子の芽は早急に摘み取るべきだと。丸椅子に座った儘足を組み、ユリシーズは言う。


「難しいかね?」
「いや、出来るよ」


ユリシーズの問い掛けに対し、レイは直ぐに首を横に振り、可能である事を伝える。話を聞く限りでは、相応の実力が無ければ返り討ちに遭ってしまいそうだが。レイははっきりと自らが彼の存在に対抗出来ると言う意志を見せた。


「ただ此処では出来ないかな。色々準備が有るから、家に帰ってからやってみるよ」
「それは有り難い」


大物相手に、今この部屋にある端末だけではやり合えない。そうでなくても、大きな声では言えない事案を、この大学の敷地内で片付けようとするのは少々――否、かなりまずい。学長も黙ってはいないだろう。
端末の電源を落とし、椅子から立ち上がったレイは壁に掛けられた時計の時刻を確認する。夕方の五時。今から帰宅して、作業に取り掛かれるのは早くて六時過ぎ。その事実を確認し、レイはユリシーズに向き直ると彼に訊ねた。


「何なら、見に来るかい?」
「……は?」


突然の申し出。予想していなかった誘いにユリシーズは間の抜けた声を上げ、ずれかかった眼鏡を片手で直しつつ、彼を見返す。
彼の自宅へ招かれた事は何度も有る。何も珍しい事では無いが、あくまでもプライベートでの話だ。今回に関しては、『仕事』の最中に邪魔をする事になる。


「そのハッカーを倒すところ、ちゃんと確認した方が良いんじゃないかと思ってね」
「それは、そうだが……」


作業をしている処を見られて良いのだろうか。確かにユリシーズはレイに比べれば機械関係の知識は無い。それでも、最低限の知識は持ち合わせているし、それによって『彼』の仕事に何らかの支障を来したりしないか。若干ながら不安が有った。


「ついでに夕飯奢るよ。久し振りにゆっくりユーリと話がしたい」
「しかし」
「何? もしかして私が仕事をする処を見るのに気が引ける?」
「…………」
「大丈夫だよ。機械に触らなければ、君がどうこう出来るものじゃないし」


物理的に破壊しなければ大丈夫。そう告げるレイは、ユリシーズを全面的に信用している様だった。有り難い事だが、ストレートに言われると何だかむず痒い。
にこにこしながら言って来るレイに対し、ユリシーズは気付いた時には頷いていた。




[ 96/167 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -