13

声高らかに言い、握り締めるのは白銀の銃身。何処からともなく現れた二挺の拳銃は、ニュクスの両手に握られ、目の前の敵を倒さんと向けられる。丸腰だと思っていた男が突然生み出した銃に対し、男達は一瞬驚き、固まる。その隙を見逃さず、ニュクスはトリガーを引いて発砲し、男の周囲を取り巻く護衛達を撃ち抜いて行く。銃声を聞き、我に返った護衛達が反撃に出ようと持っている銃をニュクスへ向けるが、遅い。彼等が発砲する前に、ニュクスの銃弾が彼等の身を貫き、次々に地面に落として行く。辛うじて撃つ事が出来た者も居たが、そもそもニュクスには銃が効かない。彼に向けて放たれる銃弾は、その身に触れる前に勢いを失い、地面に落ちる。銃を操る異端者としての能力か、それとも別の力が作用しているのか。詳細を知る者は居ない。
ニュクスの攻撃により、十人以上は居た筈の護衛達は皆倒れ伏し、自らの血で床を赤く染め上げた。己を守る存在が居なくなった男は、短い時間で行われた侵入者による一方的な殺戮劇にただ驚き、茫然と立ち尽くしている。一通り倒し終えた事を確認したニュクスは、銃口を男へ向けた儘、ゆったりとした足取りで彼との距離を詰めていく。それは己の方が優位な立場にあるが故の余裕か。ジェレマイアもまた、ニュクスの後ろに続き、少しずつ男へ近付いて行った。


「さて、アンタには聞きたい事が幾つか有るんだが。答えてくれるよな?」
「う、うううう……」


先程は教えない、と強気に言っていた男も、ニュクスが護衛達を圧倒した事により、引け腰になっている。持っている銃を発砲しようとするが、トリガーに掛けている指が震え、上手く行かない。震え方が痙攣と言っても良い程酷いのは、薬物摂取による禁断症状なのか。
今の男から期待している情報が聞き出せるかは分からない。けれど、護衛達を倒してしまった今、話を聞けるのはこの男しか居ない。尋問は余り得意では無いが、多少手荒な事をしてでも、情報を得なければ。


「やめて下さい!」
「……っ!?」


互いの距離は、残り数歩と言った所。其処でニュクス達は、室内に響き渡った第三者の声に驚き、動きを止める事となった。


「やめて下さい……父を、父を殺さないで下さい!」


それは聞き覚えのある声だった。鈴を転がした様な、可憐な声。この声の主を、ニュクス達は知っている。ただ、この様な状況で聞く事になるとは、思わなかった。


「……何で、お前が此処に……?」


叫ぶ様な声の後、室内に駆け込んで来たのは、何時か月桂樹に仕事を求めて来た、あの少女だった。突然の展開にニュクスは驚き、ジェレマイアもまた信じられないと言った様子で瞳をぱちぱちと瞬かせる。
少女は男とニュクス達の間に割って入ると、男を庇う様に両手を広げ、立ちはだかった。父、と言うのは男の事だろうか。ニュクスは怪訝の色を顔に浮かべ、二人を交互に見遣る。正直、親子と言うには似ている箇所が殆ど見当たらない。薬物摂取の所為で男の見た目が変わってしまったからか、それとも彼女が母親に似たからか。
疑問に思っていると、ニュクスの問いに対し、少女はとんでもない答えを返して来た。


「なんでって、ここは私の家です」
「……は?」


家。
その言葉を聞き、ニュクスは酷く間の抜けた声を上げた。少女の自宅と言う事は、矢張り目の前の男と少女は親子なのか。確かに此処は東エリアで、少女が住んでいる地ではあるが。男が父であるならば、一緒に住んでいても何ら不思議では無いが。まさか過ぎる事態であり、ニュクスとジェレマイアは動揺を隠せなかった。


「こんな事って、有るんですねえ……」
「……どうすんだよ、これ」


立て続けに起こる予想外の事案。疑問は重なり続け、何処から解決して行けば良いかも分からなくなる。男だけでなく、少女に対しても聴きたい事は幾つか有った。この場合、どちらから聞けば良いものか。銃を構えた儘ニュクスは悩み、ジェレマイアも頭を抱え、唸った。


「銀月さん達、どうして此処に来たんです? 此処は大事なお薬をしまっている倉庫ですよ? まさか、盗みに来たんですか?」
「馬鹿野郎、誰がこんなモン盗むか。お前こそ、これが何か分かってんのか?」


何故に泥棒扱いされなければならないのか。心外だと言わんばかりにニュクスは片眉を跳ね上げ、反論する。少女の発言は、聞き捨てならない。彼女が守ろうとしているのは、人の身に害をなす薬物であると言うのに。それをまるで大切なものだとでも言う様に守ろうとしている。どういう事なのか。


「はい、父の病気に効くお薬だって」
「……え?」




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