突然すぎて衝撃的な山ノ井先輩の告白から24時間。私は未だ昨日の島崎先輩の事で悩んでいて、高瀬は相変わらずへらへらしていた。それが欝陶しくて睨み付けても表情を変えない。
「……ねぇ」
「なに」
「殴らせて」
「はあー?」
「その顔まじハラ立つわイライラするだから殴らせて」
「短気な女は嫌われるぜ?」
「……うざ」
目を細めて気色悪い笑みを浮かべ顔を覗き込む高瀬に目を逸らし溜め息を吐いた。人がいろいろ悩んでいる時にこいつはいつもこうだ。ふと窓の外を見ると一人とぼとぼ歩いている島崎先輩を見つけた。…どこ行くんだろ。先輩を目で追っていると廊下の方から甘ったるい女の子特有の声が聞こえた。
「あ!高瀬ーっ」
視線をそっちへ向けるとテニス部マネージャーの奈々先輩が。呼ばれた高瀬は奈々せんぱい!なんてうれしそうに廊下へ駆けて行った。よっぽど先輩に懐いているらしい高瀬は頭を撫でられて頬をゆるませている。なに、あいつあの先輩の事好きなの?わかりやすいなー。
「ね、慎吾見なかった?」
「慎吾さんっすか?見てないっすけど…」
「そっかぁ…」
ここから離れてる二人の会話が聞こえる私の聴力もたいがい気持ち悪い。島崎先輩を探しているらしい奈々先輩は困ったように表情を歪めた。
「なぁ、お前慎吾さん見たー?」
「見てない」
急に高瀬に話を振られて嘘を吐き出す。本当はさっき見たけど。永久に見つからなければいいよ。視線を二人からなにも書かれていない黒板に移す。…あ、私明日日直じゃん。
そういえば、もうすぐ夏休みだ。先輩に会えなくなるんだろうな。はたして私は先輩のことを考えない日々は来るのだろうか。