今思えばどっちが先に好きになったのかすらも覚えてない。多分、野球をしてる彼に惚れたのはあたしだったと思う。
「榛名選手今日の試合はどうでしたか?」
「今シーズン一番の投球が出来たんじゃないかと思ってます」
「榛名選手はプロになって数ヶ月しか立っていませんが、早くも沢山のファンがいますがその事についてどう思われますか」
「スゲー嬉しいっすね。ファンのために投げようって思いますしね」
一人虚しくテレビを見ていて悲しくなった。嬉しいとか言う榛名に腹が立った。高校を卒業してからあたしは榛名に嬉しいなんて言われた記憶がない。ご飯を作ってあげても、誕生日祝ってあげても、嬉しいともありがとうとも言ってくれなくなった。
高校の頃はよく言ってくれたし、好きとも愛してるとも恥ずかしくなるような言葉を言っていた。卒業してからの時間が人間をこんなにも変えると思わなかった。
そんな事を考えながらテレビを見ていると今の気持ちの真逆なメロディーが流れる。榛名が俺専用の着メロとか訳のわからない事を言いながら勝手に登録した曲だ。
「もしもし」
「今なにしてんだよ」
「榛名見てた」
「なんだよそれ」
「テレビに出てた榛名見てた」
「恥ずかしくなっから言うなよ」
「榛名が今なにしてるって聞いたんでしょ」
「まぁ、そうだけどよ」
「で、なんか用?」
「可愛くねぇな」
「ほっといて」
「今日家行けなくなったから連絡入れておこうと思って」
「えっ、なんで」
「先輩と飲みに行かなくちゃなんねぇんだよ」
「…あっそ」
「あっ、わりぃ、また掛けなおす」
そう言って勝手に切れた電話。榛名はいつも勝手すぎる。今日がなんの日か榛名は知ってんの?
「あたしの誕生日だっつんだ、バカ榛名」
あたしは榛名の誕生日覚えてても、榛名はあたしの誕生日忘れるくらいだもんね。プレゼントなんか期待してないけど会えるだけでこっちは嬉しいんだよ。
こんな事あっても別れられないのはあたしが榛名なしでは生きていけない証拠。