「あ、えっ、と…、失礼しました!」
いきなりの事であたしは慌ててその場から逃げた。何故だか分からないけど沢山涙がでた。あたしの数十年の初恋も終わったな。
「名前!」
「…しっ、しんご、さん、あた、し、あたしっ、」
「ごめんな。俺、無神経過ぎたわ」
「あ、あたしがっ、わる、いんです」
慎吾さんの前で泣いたら駄目だと分かってるのにあたしの涙はとまらない。なんでこんなに辛いんだろう。あんなに近くにいた高瀬がどんどん離れて行く。
「俺、名前の笑う顔が好きだから、いつもみたいに笑ってくれよ」
「すみ、ませんっ、あた、あたし、の、知ってる、高瀬が、居なくなって、いるようで、恐いん、です。あたしっ、準太、が、好き、でした。」
「過去形にする必要ねぇだろ」
慎吾さんは優しい。慎吾さんといるとあたしは慎吾さんを利用してしまう。あたしは駄目な女だ。
涙は止まらないし、辛いけど数十年ぶりに彼の名前を呼んだ気持ちはここにある。