会いたい。
ごめん。今、忙しい。
分かってた、彼が忙しいのくらい。大学卒業して会う機会が減った。だけど私は今までずっと「会いたい」と言ったことはなかった。きっと、忙しいと言われるって分かってるから。だけど今日だけは会いたかった。だって、一人で過ごす誕生日がこんなに寂しいなんて思わなかったから。そして彼は私の誕生日覚えてなかったことがこんなに悲しいと思わなかった。ケーキもプレゼントも要らないから彼に会いたかった。
もう今日は一人なんだと思えば思うほど悲しくなったから気を紛らわすタメに一人で呑みにいった。
「ねぇ、君一人?」
「え」
女が一人で呑んでたら誰でも声をかけてくるだろうか。私より少し若く見えるくらいの男の人に声をかけられた。一瞬ついて行こうかと思ったけど頭をチラつくのは矢野の顔だけ。気がついたらまた一人で暗い道を歩いてた。
「(気持ち悪い。呑みすぎた)」
電柱にもたれかかり携帯を開けて時間をみる。私の誕生日終了まで後、5分程度。
私独身みたいな誕生日送ってんなー。なんて酔った頭で考えてたら後ろから誰か走ってくる音が聞こえた。少し怖くなる。
「名前!」
「……や、の?」
振り返ると私がずっと会いたくて、会いたくてたまらなかった人がいた。
「おまえ何してんだよ」
「……っ」
「え、なに泣いてんの?」
泣くつもりはなかった。会ったら笑って彼に抱きつくつもりだった。のに心の紐がゆるんで涙がとまらない。
「……」
「ごめん」
「謝るな馬鹿」
「誕生日おめでとう。愛してる」
なんてクサイことを言うんだろう。だけど私には嬉しくて仕方ない。
「もう、時間過ぎてる」
「今から時間取り戻すからさ、俺と結婚してください」
そうして出された小さな指輪。
彼は私を泣かせるのが得意らしい。