暑い。なんで私がこんなとこで待たされなきゃなんないわけ?私を殺す気ですかあいつは

「……っあー無理!」

小さく叫んで吸っていたタバコを地面に叩きつけた。なにしてんだあいつ。

「わりぃ、待った?」

ひょこひょこ髪を揺らしてやってきた島崎を睨みつける。遅れてきてヘラヘラしてんじゃないわよ。

「遅すぎ。死ぬかと思ったし」

「お前はそう簡単に死なねえだろ」


ひひ、と歯を見せて笑い腕を引っ張って私を立たせる。悪びれない笑顔に、怒っていてもいつもま、いっかで済ましてしまう私ってほんと甘い。甘過ぎる。

「俺さあ、プレゼントの話したじゃん?」

「うん、好きな子に渡そうと思ってるっていう話でしょ」

そういう話は前からちょこちょこ聞いていた。別に付き合ってるわけじゃないけど島崎が好きな子にプレゼントをあげる。誕生日にサプライズ的なかんじで渡したいとは言っていたけど。結局なにを買ったのかは聞いていなかった。

「てかさ、プレゼント買ったの?」

「そのためにお前呼んだんだけど」

どうやらまだ買ってないらしい。女の欲しいもんなんてわかんねえからお前いいの選べよ、って。なんで見ず知らずの女のために私が選ばなきゃなんないのよ。

「てかさ、島崎の好きな子ってだれ」

「あとで、教えてやっから今は付き合え」

「はあ?」

今、教えてくれてもいいと思う。はぐらかされるの私嫌いだし。


何件か店を回っていくつかいいのあったけど毎回島崎は、お前の欲しい物は聞いてねぇの一言。たしかに自分が欲しい物を選んでいたかもしれない。だからといってその子が欲しそうな物なんて私には検討がつかないわけで。とりあえず疲れたのでお茶をすることになった。お茶って言ってももう時間的に真っ暗だけどね。待ち合わせしたの夕方だからね。

そろそろお腹も減ったのでお茶するならご飯食べようぜという島崎の提案でなぜか高級そうなレストランに連れて来られた。話を聞くとどうやら予約していたらしい。なぜ。私と来ずに好きな子と来るべきだと思う。

「そういえばお前彼氏いたっけ?」

「…いませんけど」

「あ、そうだったな。女一人で寂しく過ごすんだ」

「うっさい。あんたも人のこと言えないんじゃないの。ただ好きな子がいるだけで」

「ご心配無用。そいつは絶対俺の彼女になるから」

「はあ?」

自信満々に言った島崎に眉を寄せた。その発言は私にとって馬鹿らしい以外の何物でもなかった。だって相手にフラれたらそこで終わりじゃないか。

「で、そのプレゼントってのがこれ」

テーブルに小さい箱を乗せて私に寄越した島崎はなぜかすごく楽しそうだった。てか買ってたのかよ。じゃあ私今日来る意味なかったし。無駄な時間過ごしたわ。私の時間返せ。

「買ってたなら今日私を付き合わせる必要なかったでしょ」

「まあそうなんだけどさ、いいじゃん別に。それよりもちょっとそれ開けてみてくんね?」

「はあ?私のプレゼントじゃないのに私が開けるの?」

「うん」

「……意味わかんないし」

とか言いつつ中身が気になるので開けてみる。島崎のやつ女の欲しい物なんてわからないとか言ってたけどどんなの買ったんだ、ろ

「……」

「ど?」

「……いや、これ、付き合ってもないその子にいきなり渡すの?」

箱に入っていたのはシンプルな指輪だった。いやいやいや、いきなりこれはまずいでしょ。相手もびっくりするよね。でも島崎は相変わらず笑っている。

「びっくりした?」

「いや誰でもびっくりすると思うよ」

「じゃあもっとびっくりさせてやるよ」

「は?」

「俺お前のことが好き。だから付き合って」

結婚を前提に、なんちゃって。満面の笑みで私の手を握ってきた島崎に一瞬思考回路が停止した。よく見ると島崎の薬指にはこれと同じ指輪が嵌められている。え、ええ。てか、私すら忘れてる誕生日を何故こいつは知っている。

「びっくりした?」

「…あ、当たり前でしょ!」

「よっしゃーサプライズ成功ー!」

こういうサプライズってある意味心臓に悪いと思う。でも女だったら誰でもきゅんってすると思う。現に私ちょっときゅんってなったし。だけど私は島崎のことをそういう目で見たことがない。それでも、もしかしたら気付かなかっただけで私って島崎のこと好きだったのかもっていう錯覚に陥る。このサプライズはそれくらいの威力を持っていた。島崎の言っていた通り、私は彼女になりそうだ。






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