男だけの部室に一人の女子生徒がドアをバンっと開けてずかずかと入って来て俺の手にあった携帯を真っ黒いマニキュアで彩った指が奪う。そして笑顔で俺の携帯を逆パカした。ばきっ

「…」

「うわっ、準太悲惨」

「準太なんかしたのか?」

「あの、俺なんかしましたか?」

「やーね、他人に敬語使うわりに顔に死ねって書いてるわよ」

「修理費払ってください」

「いいけど…こっちは慰謝料払ってもらわなくちゃね」

「は?」

「私の頬が赤いのは高瀬の顔が整ってるから」


言われて見れば女子生徒の左のほっぺたが赤く腫れていた。まるで誰かにひっぱたかれたみたいに。もしそうだとしたら心当たりが一つだけある。

「…俺には関係ないです」

「あら、大事な恋人が傷害事件を起こしたというのに関係ないで済ますなんて愛されてないのね彼女」

「あいつが何したって言うんですか」

「有無を言わずに平手打ち。びっくりしちゃった」

「いや、そう言われましても」

「いるのよね、そういう子。だからその恋人である高瀬に落とし前つけてもらいたいの」

「ふざけないで下さい。」


女子生徒はため息をついて俺の携帯をその辺に放った。なんなんだ?先輩たち噂してるし。多分俺の彼女にビンタ喰らわされて何も言えずに俺んとこにのこのこ来たわけなんだろうけど。

「とにかく彼女を叱って土下座させてくれない?」

「嫌です……慰謝料なら払います」

「高瀬のはした金なんて最初から欲しくないの。こっちはプライドがズタズタなんだから」

「そんな事言われましても…、それにあんたがあいつを苛立たせるようなことしたんじゃないですか?」

「野球部の誰でもいいから紹介してって言って、めんどくさかったら高瀬でもいいよって聞いた以外私は何もしてないのだけれど…」

「それです」


女子生徒は俺の携帯を真っ二つにしただけじゃ飽きたらずガシャガシャと踏み潰す。完全にひっぱたかれてもおかしくないことをこいつは言った。つまり全部八つ当たり。ありえない。しまいに携帯を蹴り飛ばすといい笑顔で振り向いた。


「私、あなたの顔が大好きなの。だから高瀬で妥協してあげる」

「…はい。いや、えっ?」







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