この春の顛末


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体育館の倉庫



渋々と出席した体育の授業で、たまたま天城とペアになった。

「準備体操やろ!あれやりたい、背中合わせに立って腕を組んで、シーソーみたいに交互に持ち上げるやつ」
「…はいはい」

言われるがまま背中合わせに立つ。腕をぐいっと出されたので、されるがまま腕を組んだ。

「俺から持ち上げていい?」
「いいよ」

答えたと同時に、体が持ち上がる。

え、人前でこの密着度すごくね。体育のソーシャルスペースの距離感バグってるだろ。

「あはは、高良が思ったより軽くてびっくりした!」

次は俺!なんて言われるがまま、「よいしょ」と小声で言いながら持ち上げた。

「…天城、わざと上で動いてる?」
「高良に乗ってるの楽しい。ふざけちゃう」

いつでも乗せたい。できれば膝。

「好きなんですけど」
「え、なんて」
「なんでもない…全体でも準備体操したし、ガッツリしなくて良いんじゃない?」
「早くない?まあいっか」

そう言いながら、天城は屈伸したり伸びしてる。

天城はサッカーが得意で、今日も気合が入っているらしい。ただ、そんな天城を見て、女子が騒いでるのが正直あんまり面白くない。

…隅で静かにやれる練習でもするか。

「リフティング教えて、天城」
※リフティング…サッカーボールを地面に落とさないように、宙へ蹴るのを繰り返すこと

お願いしてみたら、パァァと笑顔になる天城。そういえば、2人でスポーツする機会なんてほとんどないかも。

「俺もそこまで上手くないけど、もちろん教える!」
「3回しか続かねえわ」
「つま先の向きがポイントですな」
「そうなん」

隣でポンポンとお手本を見せてくれた天城は、余裕そうに何回でも続いていく。

「こうやって、つま先が地面に平行になる高さにすんの」

え、俺の好きな子もしかして天才?帰宅部でこんな逸材っていんの。

思わずマジマジと見惚れる。可愛い天城とのギャップがいい。

「もしかして、小学生のときサッカーやってた?」
「よく訊かれるけど違う…あ、でも香取によく付き合ってもらってたよ」

そう言われて、背後あたりにいる香取をチラ見する。

香取は秋山とペアらしく、蹴まりみたいな謎の遊びをしていた。あいつマジで変。

…見た感じ、香取はそんなに上手くはなさそうだけど。

「あ、そうそういい感じ!」
「太ももきつい」
「地味に筋肉つかうよね」

リフティングをしながら二人で話してると、ふと近くにいた女子たちが数人で寄ってくる。

俺とは普段、話さないようなふわふわ系の女子。

「天城くん、私にも教えて」

…そういえば放課後の教室で、天城の寝顔を見つめてたのこの子じゃん。

やっぱり天城狙いか。

「リフティングって、女の子には難しいかもだけど。いいの?」
「コツだけでも…!サッカー下手なんだよね」
「うーん。じゃあ、ちょっと今やってみて!」

天城がニコって笑うと、顔を赤らめてる女子。それを見て、ほかの女子たちが軽く茶化している。

真顔でふたりのやり取りを見ていたら、その子のリフティングしてる姿を見てた天城が近寄っていく。

「前傾姿勢になると、つま先が下がっちゃうから…」

そして、女子の肩をそっと持ち上げた。

その瞬間、照れたのか「キャー!」なんて黄色い悲鳴をあげたその子は、両手で顔を隠した。

「え、触られるのイヤ?ごめんセクハラした!」
「嫌じゃない!嫌じゃないよ!」
「ほんと?よ、良かった…」

は?良くねえよ。触るのイヤに決まってるだろ俺が。

…何見せつけられてんの俺。

「そろそろ天城、返してもらっていい?」

無理やり間に入ると、その子がビックリして後ろに後ずさる。

「ご、ごめんね。高良くん…!」
「俺の今日の目標、リフティング5回だから」
「え。私たちと同レベじゃん!笑」

その子達はニコニコしながら手を振って、「話せてよかった!」なんて言いながら走り去っていく。

天城が一部の女子のあいだで爽やか王子、なんて呼ばれてるのは知ってる。

それも内心では心穏やかじゃない。

「俺のコーチでしょ?天城は」
「え」
「俺にも、さっきのやって。肩に触れるやつ」
「た…高良、妬いてる?」

距離を縮めていくと、天城が真っ赤になる。

こうして照れてる顔が可愛い。誰とでもすぐ仲良くなって、人懐っこくて誰からも好かれる。

モテないわけないんだよな。

「…妬いた」
「ご、ごめん」
「でも、サッカーしてるときの天城は格好いいと思うのはわかる」

目を逸らしながら言葉にすると、天城がみるみる固まっていく。

そういえば、格好いいなんて天城に言ったの初めてかも。

「俺も。ヤキモチ妬いてるときの高良、可愛くてギャップあるから好き」
「…あっそ」

天城に可愛いとか言われるの恥っず。思わず俯いて顔を隠すと、覗き込んでくる天城。

このままキスしてやろうかな。

「あのー、先生呼んでますけど」

背後から来たのは香取。ふと気づいた時には、クラスの全員が集まっていて。

周囲の様子に気づかないままイチャついてた俺らは、みんなの視線のど真ん中にいた。

END




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