この春の顛末


≫Top ≫Novel

好きな人できたかも



※両片思い設定です


教室の隅で香取と昼ごはんを食べていたとき、ふとクラスの女子がタタタっと走り寄ってきた。

たまに恋バナのエピソード話せ!とかよく分からない迫り方をしてくる、美術部の女子。

「ねえねえ、あまりん!好きな子いる?」

はい!今日も来たこの謎な質問!なんでいっつも俺に訊いてくるん。

「えー。好きな子か〜」

チラリと見ると、他にもクラスの女子の何人かがこっちを見ていてすごく答えづらい。

「気になってる子でも!」

とりあえず考えてみる。

ふと思い浮かぶのは、いつもマスクをして口元を隠しているクラスメイト。

教室ではいつも、窓から入る光に金髪がキラキラ光ってて…。

「あれ?」

なんで高良のことを考えてるんだろう。

というか、一つずつ無造作な仕草を覚えてる自分にちょっとビックリする。

「…いる…かも」

ポツリと零したら、あんぐりと口を開けて俺を凝視してくる香取。

女子達が「キャー!!!」って悲鳴をあげて、クラスの注目を集めてしまった。

「え、だれ!どんな子!」
「ええっと…待って、俺も今自覚したからテンパってる」

どうしよ、俺もしかして高良のこと好きなん。

うわ、自覚しちゃったぞ!今日も環境委員の委員会がある日なのに、どうしよう。

困惑してアワアワしてたら、不意に背後から肩をつつかれる。

「…邪魔していい?」

振り返ると、そこに立っていたのは高良で。

びっくりして思わず「ぎゃあ!」と悲鳴をあげた。

「ど、どした」
「い、いや!びっくりしただけ…!」
「環境委員のプリント、渡しにきた。…話したいことあるから、天城もらっていい?」

女子と香取に確認しながら、俺の腕を引っ張る高良。

え、なにこの展開。腕を引っ張られながら廊下に出される。

落ち着け俺、きっと聞こえてなかったはずだし、聞こえててもまだ高良とはバレてないはず。

「話ってなに?びっくりしたわ」
「好きな人いるん」
「げ!き…聞こえてた?」

思わず真っ赤になって答えると、両肩を掴まれて「はぁあ…」と大きなため息を吐かれる。

そのまましゃがみ込んだ高良の横に、ちょこんと座る。

なにごと?なんで高良か落ち込んでるん。

「ど、どうしたん…?」
「天城が好きなの、どんなやつ?」

単刀直入に尋ねられて、ウッと言葉が詰まる。なぜ高良にそんなこと聞かれてんの俺。

答える必要なんてない。

そう思うのに、金髪から覗いてる目から視線を逸らせない。

…これが恋か。

「き…金髪で」
「うん」
「クールな人…」

バカ!もうモロバレじゃんか!

金髪でクールって絞られすぎ。俺ほんとに隠すの下手。

慌ててパッと口を塞ぐと、高良がそれを防ぐように俺の両手首を掴んできた。

「え、え…なにその中途半端なやつ」

高良がボソッと言った。ふと顔を見ると、高良は真っ赤になってる。

え!高良ってそんな顔するの?

初めて見る表情に、思わずこっちまで恥ずかしくなる。

「俺の好きな人言っていい?」
「うん」
「黒髪で笑顔が可愛い…元気な子…」

小さな声で言われて、思わず困惑する。

え、それって…。

「誰それ」

なんで教えてくれたん、もしかして俺にだけ喋らずの申し訳なくて、気を使ってくれた?

困惑していると、目の前で固まっている高良。

顔の赤みがどんどん引いていって、ビビるほど真顔になっていく。

「…俺ダメだわ、勝手に浮かれた」
「え、なになに!なんで落ち込んでるん」
「金髪って…土井とかの可能性もあるか。いや…良い、希望は捨てない」

パッと手が離れて、高良が立ち上がる。それがなんだか寂しくて。

「高良」
「なに」
「可愛くはないけど、俺も黒髪で元気だよ」

冗談めかして、挙手しながら言ってみた。だってただ諦めるのは悔しいし。

せっかくなら片思いしてること、後悔したくない。

「…知ってる」

また高良は耳まで赤くなっていく。

何なん、赤くなったり真顔になったり。よく分かんないけど、色んな表情を見せてくれるのが嬉しくて。

俺の前でそんなに、色んな顔してくれるんだ。

「今日一緒に帰ろ」
「…ハイ」

自覚してしまった片思い。希望は全くないのは分かってる。

それでもせめて、そばにいる時くらいはたくさん笑ってたいなと思った。

「俺、今日からもっと元気になるわ」
「…充分でしょ」

END



大きな積乱雲に照りつける西陽。あまりにも夏すぎる。今日は月曜日で、環境委員の仕事当番の日。

校庭の花壇に植えられたヒマワリに、高良と水遣りをする。すっかり二人でいることにも慣れてきた。

それでも、片想いは進行中。

「高良、今日はマスクしないん」
「さすがに暑すぎ」
「ヒマワリの葉っぱもカラカラだもんな」
「真夏に咲いてるこいつら、マジで生命力すごすぎ」

背の高いヒマワリを見上げながら、高良が花弁をつついてる。その仕草がなんか可愛くて、思わず笑ってしまった。

ホースを持って辺りを水に晒しながら、額の汗を腕で拭う。身体がほてってきたから、持ってきたシーブリーズを鞄から出して、首元にピシャピシャとかけた。

「天城、シーブリーズ似合う」
「瞬間、汗キュン!」
「そのポーズは謎すぎ。笑 良い匂いすると思ったら、それだったんだ」

高良が近寄ってきて、首筋の匂いを嗅がれる。うわ、恥ずかし!近すぎるから。

「ぜ、ぜったい汗臭いって」
「セクシーな香りだった」
「それを言うなら、高良のほうが…」

高良の方がいい香りだって、と言おうてしてやめた。無意識に香水の匂いを意識してたのバレそうな気がして。

恥ずかしなって俯くと、高良が顔を覗き込んでくる。

「俺の匂い、好きなん」

…そんなの、俺のキャパを超えるから答えられない。

もしかして俺たちっていい感じ?このくすぐったい空気、俺は照れちゃって耐えられない。

好きだと、思い切って答えようとしたとき。

ピシャリ、と空気を打ち破るように聞こえてきたのは、女子の声。


「高良ー!」

振り返ると、クラスの一軍女子がいた。あ、やっぱりこれが現実。

「今日一緒の帰ろ〜」

女子達のお誘いに、高良がチラッと俺を見る。今日は一緒に帰る約束をしてたけど、友達でもない俺はただのクラスメイト。

立場はわきまえている。

「いいよ、女子たちと帰りなよ」
「…なんで?」
「え」
「あいつらと帰ってほしいの」

そう尋ねられている間にも、水遣りは終わっちゃって。ホースの水を止めながら、なんて答えようか迷う。

…本当は、俺と一緒に帰って欲しいけど。

「俺は大丈夫。気を遣ってくれてありがとな」

そういうと、高良が持ってた用具をパッと取って、用具室に向かう。

俺は一緒に居られたらそれでいい。

好きだから一緒にいる時間は笑ってたいけど、それ以上のものを望むのは贅沢すぎるし、困らせる。

今日話したことを思い出しながら帰れば、「楽しかったな」で終われるから。


−−−


帰る時にはすっから夕焼け空。薄い月がぼんやりと浮かんでいて、少しだけ星が散ったオレンジの空を眺めながら帰る。

夏の夕焼け空って壮大。あまりに積乱雲の大きすがて、自分がちっぽけに感じて俯いた。

「…ワガママ言えば良かったのかな」

本当なら、高良とふざけながら歩いていたはずの帰り道。

自分はこういう性格だから仕方ない。それでも、本当はまっすぐに気持ちを伝えたかった。

後悔をしながら、長い長い一本道の先をふと見上げる。

そして、思わず目を瞬かせた。

「え?」

見慣れた金髪が夕焼けに染っていた。オレンジ色の背中はすごく綺麗で、思わず見つめてしまう。

なんで一人で歩いてるん。

…なんで俺が忘れたシーブリーズを片手に持ってるの?

立ち尽くしながら後ろ姿を見つめてたら、シャカシャカと振ってそれを手首に付けたりしていて。

その仕草を見ているだけで愛しくて、胸がいっぱいになってきて、ドキドキしてきた。

感情が止められなくなって駆け出す。これって切ないのかな、舞い上がってるのかな。

「…っ、高良!」

勢いよく走り出して、止まりきれずに高良に衝突する。

びっくりしながら両手で受け止めてくれた高良に、思わずキュンとする。

「…どうした」

高良の心臓のところに手が当たってる。高良も同じくらい心音がバクバクしてるってわかる。

余計に頭がこんがらがって、思わずパッと距離をとって。

「い、一緒に帰ろ…」

そう言ったら、「何それ」と言って笑われた。

その心を開いてくれてる感じの笑い方が好き。照れた感じの笑い方が可愛くて、いつものクールな顔とは全然違ってて。

「走って汗かいたわ」
「これ、忘れもの」
「高良が使ってたの、見てたよ」
「…うわ…はず」

一緒に過ごせる、駅までのたったの10分や15分の時間。

そんな時間すら、高良と一緒に過ごしたいって思ってしまうよ。

END


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -