この春の顛末


≫Top ≫Novel






(天城視点)


高良とお付き合いをして、そろそろ9年目の春を迎えようとしている。

正直、こんなに長く一緒に居てくれるだなんて夢にも思ってもいなかった。高校も大学も卒業して、一人立ちして社会人になって。

ついに周囲でもぽつぽつと結婚する同級生も増え始めてきた、そんな桜の季節。


―――


「いや、まさか俺らまで呼んでもらえるとは思わなかったわ」
「律儀で香取っぽくね」
「高校時代からの彼女ってところもね」

香取の結婚式後の二次会。ハ高の同級生の席は固められていて、俺のとなりの席に高良と田中氏、瀬川くんが座っている。

「おい池上、香取っていつの間に一軍を結婚式に呼ぶ仲になったんだよ」
「さあ…山崎知ってる?」
「ぜんぜん知らない。ねむい…」

正面の席では、戦々恐々とした雰囲気で秋山と池上がコソコソと話してて、ザッキーだけが今にも寝そうな顔をしてる。

まさか卒業してから、こんなメンバーで集まることがあるなんて思わなくてちょっと嬉しい。

「いやあ皆さんお揃いで。やっぱ遠目から見ると面白い顔ぶれだな」

大学の友達と話していた香取がテーブルに回ってきて、ワッと拍手が起こる。


「「「香取、おめでとー!」」」


みんなでお祝いを言いながら、改めて乾杯をする。「いやあ、感慨深いなあ」と頭をかいている香取が、ちょっとだけ俺よりも大人に見えたりして。

「香取マジで久々じゃん。なあ、どうして俺らも呼んでくれたん」

田中氏が香取の肩を組みながら尋ねる。

「いやあ、どうしているかなあと」
「そういうのいいから、本当のこと言えって」
「はは、バレてましたか。やっぱり天城ですね」

香取がいきなり俺の名前を出すから、「え?」と首をかしげる。すると香取は皆の顔をぐるっと見ながら言った。

「天城もこのメンバーくらい、声かけろよ」
「え…お、俺?」
「というわけで、お願いします」

笑いながら、香取が高良の肩をぽんと叩いていて。

―――ええ、どういう意味

「そういえば、お前らって結婚すんの?」

田中氏がふと、俺に話題を振ってきた。

「え?結婚って、俺ら男同士だし…」
「そういう時代でもなくね。高良と相談したん」
「し、したことない…」

そう、結婚って俺とは縁がないものだと思ってた。だからこそ、事情を知っている香取と田中氏が話を振ってきたことにビックリして。

高良はどう思ってんだろ。そんなことを思いながら、その日は遅くまで皆で飲み明かした。



―――


結婚って一生連れ添うってことだよな。俺達って付き合って長いけど、明確にそういう言葉を口にしたことはないかもしれない。

「高良って…理想の将来ってある?」

パジャマに着替えながら尋ねると、高良がボタンをしめるのを手伝ってくれる。

そういえば高校の体育のあと、着替えていた時にボタンを器用にとめてくれたことがあったなあと思い出す。

「どうしたん急に」
「べ、別に大したことじゃないけど!大きな犬を飼いたいとか、田舎で暮らしたいとか」

ごにょごにょと歯切れが悪いながらも何とか言葉にしながら、思い切って気になってたことを聞いてみる。

「あとはその…子どもや孫がほしいとか」

そう言葉にした瞬間、高良の指がピタリと止まる。

「なに。天城って子ども産めるの」

高良の声が冷たくなって、
向けられた言葉がショックで、ズキっと心が痛む。

「俺…は、無理だけど」

何とか言葉を絞り出したら、高良がハッとした顔をして「…あー」と頭をガシガシといた。


「今のは俺の言い方が良くなかった。ごめんね」
「う、ううん。本当のことだし…ごめん」
「そこで天城が謝るのは違うでしょ。俺は天城がいいから、そういうことは考えてない」

涙が滲んでる俺の目元を、そっと高良が拭ってくれた。

昔に比べて、喧嘩が減った。まずいと思ったら、お互いすぐに謝れるようになってきて。

「結婚してる人とか、増えてきたじゃん。一昨日は香取の結婚式だったし」
「うん」
「だからちょっと、不安になっちゃって」

そう伝えたら、高良はギュッと俺のことを抱きしめてくれた。

「不安にさせてごめん」

それって、男同士だから謝ってるんかな。違うんだよ、結婚したいって言ってるわけじゃなくて。

離れたいなんてちっとも思ってないのに、上手く言葉が出てこない。

「俺も高良がいいから、謝らないで」
「…分かった」

高良の服をギュッと掴んで、抱きしめ返す。

暫く二人でそのまま、気持ちが落ち着くまで寄り添っていた。


―――


朝起きたら、トントンと包丁がまな板を叩く音がした。

高良が朝ごはんを作ってくれてる音、好きなんだよなあ…なんて思いながら、ベッドから体を起こす。

「高良、おはよ」
「おはよ。今日どっか出掛ける?」
「今んとこ予定はないけど、桜は見に行きたいかも」

そう言いながら炊飯器の前へとトボトボと歩いて行って、お茶碗に炊き立てのごはんをついでいく。

食卓につくと、高良が丁度お味噌汁とタマゴ焼きを持ってきてくれたところだった。

「「いただきまーす」」

二人で朝ごはんを食べながら、ぼんやりと夫婦みたいだなあと思った。

一緒に住んでいて、当たり前に毎日を連れ添っていて。これで十分幸せなはずなのに、欲張りなのかな。




春の日差しに、背中がぽかぽかする。高良は俺にもたれたまま眠っていて、電車に揺られながら俺はスマホを弄っていた。

同性同士で結婚できなかったら、どうなるのか検索してみる。

すると緊急時に病院に立ち会えないとか、老人ホームに一緒に入れないとか、そういうことばっかり出てきて。


―――そっか、世間じゃ家族って認めてもらえないんだ。


高校生の時は、俺らの気持ちさえあれば乗り越えられることばかりだったけど。

これからは、それだけじゃダメなのかもしれない。そのことにようやく気付いた。

「高良、もう着くよ」
「…ん」

高良を起こして、電車を降りる。ホームを歩いていくと、フェンス越しに大きな桜が咲いているのが見える。


『電車が発車します』


電車からのアナウンスの直後、電車が発車して、すごい勢いで桜の花びらが巻き上げられていった。

ふと隣にいる高良を見ると、肩に桜の花びらが付いているのが見える。


「あはは、高良ここに…」


指を伸ばした瞬間。

あることに気付いた。

その瞬間に涙で視界がぼやけてきて、声が出なくなる。


「…天城、気付いた?」
「いつの間に…」
「昨日の夜。逆にまったく気付かなくて焦った。…朝のうちに伝えるつもりだったけど」


左手の薬指に触れたと同時に、高良が膝をついた。

その姿がまるで王子様みたいで見惚れてしまう。


「絶対に幸せにするから、結婚してください」


返事は決まっていた。

コクコクと頷きながら、震える声で「はい」と答えた。


「俺、結婚式もしたくて」
「うん。香取達も呼ばないと俺が怒られるし」
「あと、婚姻届みたいなやつ出したい」
「出しに行けるとこ、一緒に探そう」


高良の薬指にもある指輪を見ると、ついに我慢できなくてボタボタと泣いた。


「…ありがとう。これからも、ずっと大好き」


やっぱり俺らの気持ちさえあれば、何でも乗り越えられちゃうのかも。


END






第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -