この春の顛末


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エイプリルフール






(天城視点)


田中氏に声をかけられて廊下に出ると、いきなり田中氏に耳打ちされる。


「あまりんって、高良とまだヤッてないん?」
「なっ……」


朝からとんでもない話題を振られてビックリする。

「た、田中氏には関係ないじゃんけ!」
「いやでも……高良心配してたぜ」
「え?」


神妙な顔して突然、田中氏が気の毒そうに言った。


「あまりん性欲なさそうだし、勃たないんじゃねえかって」
「……!?」


な、何それ!

そんなわけ……っていうか、高良が心配してるってマジか。


「そ、そんなことな…っ」
「俺にじゃなくて、高良に言えよ」
「ええ!」


だってそんな、いきなり「俺ちゃんと勃つから!」とか言えないじゃんけ。


「まあ、頑張れよ〜」


田中氏はそれだけ言って、さっさと教室に入って行ってしまった。


ーーー



(高良視点)


「た……たから!」


教室に入ってきた高良を、慌てて引き止めて廊下に引っ張り出す。


「天城?どしたん、いきなり」
「あの……その……」


い、いやこんなに早く話す必要ないかも。

それでも俺の名誉が掛かってるし……!


「あの、俺は大丈夫だから」
「え?」
「こ…心の準備はまだできてないけど、でも体はそれとは別問題で」
「え、なんの話して…」


困惑してる高良に、なんとか伝えようとするけど頭がいっぱいいっぱいで。


「性欲あるし」
「待って」
「た、高良のこと考えて勃つから!」


思い切ってそう言った途端に、高良が目を丸めて固まった。


「……え!いや、待って。今のなし」


失言しちゃったことに気づいて、口をパッと塞ぐ。

すると高良が俺の手首を掴んで、急に目の前に迫ってきた。


「え。天城、今のもう1回言っ……」
「だ、だから田中氏が言うみたいに、心配しないでって話!」
「…は?田中?」


思わずその名前を出した途端、高良がいきなり真顔になって。



「……今日、エイプリールフールなのとなにか関係ある?」



その言葉に、ハッとして。

やっと騙されたって気づくと、廊下にへなへなと座り込んだ、



「~~~っ、忘れて」
「無理。俺で勃つってマジなん」
「き、聞こえない!だめ、質問禁止!」
「かわ……」



END








田中家はいつも誰か居座っていて、誰でもすぐに入れるようにって鍵はいつも開けっ放し。

さすがに不用心だろって田中に言ったら、「こんだけいつも家に男がいるんだし、泥棒くらい追い返せんじゃね」とバカ丸出しなことを言われたことがある。


そんなわけで、今日もノンセキュリティで難なく田中家に侵入する。

玄関の右手にあるリビングに入ったら、テレビが付いていて優也がソファに座っていた。

「あれ、高良パイセン。いらっしゃい」
「何見てんの優也」
「Netflixのドラマ見てる。学校で流行ってるのがあって」
「……あー、それうちでも流行ってるやつ」

そういえばこのドラマ、途中から見てなかったな。そんなことを思いながら、優也の隣に座って一緒にドラマを見始める。

「一緒に見てくれるの?」
「俺も続き、気になってたから」
「やった!そしたらアイスも一緒に食べよ」

優也がタタタっと走って、台所にある冷凍庫を開ける。

なんか手伝うかと立ち上がって、台所のスプーンが入ってる食器棚の引き出しを開けた。

「高良パイセン、もうこの家のものぜんぶ把握してそう。笑」
「こんだけ毎日来てたらね」
「あはは、もう住んでようちに!そしたら毎日楽しいもん」

二人でソファに戻って座ると、ドラマの続きを見始める。



ーーー


……なんか、気まず。

さっきからやたらエロいシーンが続いていて、田中とだったらふざけて見れるけど。

友達の弟っていうか、年下とこれは気まずい。

「何ソワソワしてんの。優也くんエッチ」
「だ……!だって気まずいし……って、うわ!」

顔を真っ赤にして俯いてる優也を弄ってたら、

慌てた優也がアイスのカップを、着ているパーカーの上に落とした。

「うわ!」
「あーあ、何やってんの」
「ど、どうしよ…!歩いたらカーペットに零れそう」

あわあわしている優也を見兼ねてティッシュを取りに行こうとしたら、こういう時に限って空箱になっている。

ほんとこの家、マメな人間いなすぎ。

「もう脱いで、洗面所で洗ってくれば」
「そうする……ちょっと高良パイセン脱がして。自分で脱いだらぜったい零しちゃう」
「え」

脱がすって。前から思ってたけど優也って、警戒心なさすぎじゃね。

いや男同士だし、俺が過敏になってるのか。
いやでもコイツ、柿本の……。


「勘弁してください」
「ねええ早く!お腹つめたい」
「あーもー分かったって。ほらバンザイして」


優也の服の裾を引っ張って優也が上裸になった瞬間、


ガチャっとリビングの扉が開く。


「……何してんの、お前ら」


お約束のタイミングで、柿本がリビングに入ってきた。



ーーー



(天城視点)


お昼休みになって購買に行ったら、アテにしてたサンドイッチがもう無い。

メロンパンとか菓子パンしか残ってないけど、甘いもの食べられないんだよな〜。

「えー、どうしよ」
「なんか困ってんの」

背後から声をかけられて振り返ると、B組の柿本がいた。

うわ、やっぱ背が高い……!

「いや、その……甘いもの苦手なんだけど」
「あーなるほど。俺のサンドイッチあげる?俺がこっち買うから」
「え!いやいや申し訳ないって」

そう言ってる間にも、柿本はさっさと会計を済ませようする。

「ちょ……待って!せめてこれは払わせて!」
「そ?あんがと」
「いやーこちらこそ助かった!ありがとな」

メロンパンとフルーツサンドを手渡して、サンドイッチを受け取ろうとすると、柿本がヒョイと袋を遠ざける。


「……せっかくだし、一緒に食わね?天城くん」
「へ?」


そう言った柿本は、もう校庭に向かって歩き始めていて。


ーーー



「……で。これがその可愛い優也くんなんだけどさ」
「う、うん」


俺なんで、田中の弟の話をずっと聞いてるんだっけ?

そんなことを思いながらサンドイッチを頬張っていると、柿本がふと話題を変えた。


「高良ってどんな感じ」
「え」
「良い彼氏?」


あ、そっかこの前バレたんだった……!

柿本って高良と仲良いんだよな。めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。


「良い彼氏だと思う。ちゃんと俺のペースに合わせてくれるし」
「へえ。アイツって浮気とかすると思う?」
「……え」


何の話、だろう。ドキッとして思わず言葉が出てこない。

なんでそんな話が出てくるん。


「ない…と思う……」
「自信ないの」
「な、なんで柿本が俺に、そんなこと聞くん」


不安になって尋ねてみたら、柿本が本心が見えない表情で笑った。


「昨日、高良が俺の好きな子の服、脱がしてるの見ちゃってさ」


……え?

服脱がしてたって。高良が女の子の服を?


「そのときはアイスが……って」


真っ青になって、手が冷たくなる。ショックで上手く言葉が出てこない。


「え、待って。もしかして泣いてる?」
「いやだって……高良が、おおお女の子の服を…」
「あーそこから違う。ごめん、これが完全に俺の伝え方が悪いわ」


柿本が困った表情を浮かべて、俺の顔を覗き込む。

嫌なことばっか考えちゃって、聞くのも確認するのも怖く言葉が出てこない。


ーーーまたこうやって黙り込んで、困らせてる。


そんなことをグルグルと考えていたとき、
いきなり後ろから肩をポンと叩かれた。


「……天城!」


振り返ったら、よりにもよって高良がいて。


「え、泣いて……」


手を伸ばしてきた高良の手をとっさに振り払って、ぺぺっと頬っぺたの涙を拭う。


やばい、今の話のことが気になって。


どう反応したらいいのかわかんない。


「なに泣かせんだよ」


高良が柿本の胸ぐらを掴みながら迫ると、後ろにいた田中が「おいおいおい。待てって」と両肩を掴んで止めてくれた。


「いや、泣かせる気はマジなかった」
「言い訳すんな」
「いや言葉足らずだったわ色々……っていうか、高良ってそんなに俺に怒れんの」


柿本が意外そうな声を上げた。


た、高良ってこんなに怒ることあるんだ。


突発的に始まった一軍の喧嘩に、ギョッとしてしまって放心状態になってしまう。


「お前が嫉妬してくる分には引いてただけ。今回はそうじゃないだろ」
「それ、天城くんが好きだから?」


柿本の言葉に、高良が迷わず答えた。


「そうだよ」


その言葉に、思わず心がキュッとなる。

信じていいの?それ。何が起きてるんやら、もう訳がわかんないんだけど。


「……じゃあもういいや」
「は?」
「お前が中途半端に優也に関わってくるから、二人の関係がどんなもんか聞きかっただけだし」


柿本はそう言って、校舎の方へと歩き出す。その時、すれ違いざまに俺の肩をポンと叩いた。


「天城くんごめん、いろいろ誤解があるから」
「え?」
「あとは高良から聞いて」


そう行った柿本に、高良が釘を刺すみたいに言った。


「この子以外ないんで」


柿本がビックリしたみたいに目を丸くした。フッと苦笑いを浮かべて、ヒラヒラと手を振る。



「それ言われて妬かなかったら、苦労しねーのよ」




ーーー



「……というわけで。アイス零したのを何とかしようとしただけだし、相手は男なんで」


高良と二人きりになって、信じられないくらい早口で事情を説明された。

その勢いに圧倒されるまま、「お、おお……?」返事をしてしまう。


「本当にわかってる?」
「わ……わかってる」


事情がわかってホッとした。柿本が話してた田中の弟が、柿本の好きな子ってことか。


……って、いやいや分からんて!
しかも可愛いって言うから、もっと幼い子を想像してたし!


「ねえ、高良」
「なに?」
「あの…えっと。この子以外ないんでって言ったの、本当?」


そう言った瞬間に、高良が顔を手でパッと隠す。

下から覗き込んだら、手で隠れてない耳が真っ赤になってて。


「……俺はず。よりによって柿本にあんなん言うとか」
「え、でも」
「なに」
「う、うれしか……った!」


そう言ったら、高良は「そっか」って呟いた。


「高良」
「なに」
「えっと、その……俺もそうだよ。高良だけ」


今度はこっちが真っ赤になって。


「あ、やっぱこれ恥ずかしいかも……」
「その感想、俺にも刺さるからやめて」


二人で真っ赤になって、暫くその場に立ち尽くした。



END





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