男子トイレの話
男同士で付き合ったのは初めてだけど、天城と会うのが一番気まずい場所がある。
そう、男子トイレ。
「高良、お前さっきの体育から前髪割れてんぞ」
「知ってる。直してから行くわ」
「へーい」
田中に声をかけて、鏡で髪を何とか直そうとする。
そのとき、背後の扉が開いた。
誰か入ってきたな、くらいに思っていると、その誰かが鏡越しにひょっこりと顔をだす。
「よっ、高良!おめかししてるん」
「…まあ」
「あはは、ごめん。見かけたのが嬉しくて声掛けちゃった」
ニコニコと笑って、天城がトイレの奥の方へと入っていく。
…あれ、そうか。今からするのか。
「…」
気まずくね?これ俺が聞いてて良いのか?
いや良いのか、この場合は…。
なんとも言えない気持ちになりながら、つい出来心でチラッと天城を見る。
「?なに」
ちょうど、天城がベルトを緩めるところだった。それだけでもう破壊力が凄い。
「…いや、別に」
「あはは、何なん。高良のえっち〜!」
天城は笑いながらカチャカチャとやってたけど、ふとピタッと止まる。
「…高良まだ終わらないの?」
「え?なんで」
「なんでって…」
不意に天城が真っ赤になって。慌ててズボンのチャックを閉め始める。
「なに意識してんの、天城くんのえっち」
「~~~っ、高良が変な視線おくってくるから!!!」
それだけ言うと、天城は逃げるように個室に入って行った。
「…はぁ」
いや、別になにかに期待したとかじゃないんだけど。
そんな日常の一コマ。
END