この春の顛末


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大喧嘩して交際宣言しちゃう話





(天城視点)


環境委員の委員会が終わった後のこと。

高良と放課後に居残りをして、プリントの空欄を埋めるために居残りをしていた。

「プリント、やっと埋まったな〜。お疲れ!」
「あの三年の先輩らのせいで、ムダな仕事増えた」

うんざりした顔をしている高良の肩を叩いて、「まあまあ」と宥める。

時計を見たらもう18時を回っていて。

「提出してくるから、天城はここで待ってて」
「え!いいの、任せちゃって」
「他にもやることあるでしょ」

高良はそう言って立ち上がったけど、何のことだかよく分からなくて。

首を傾げていると、高良がちょんちょんと黒板を指さした。

そこには日直の欄に、「天城」と書かれてあって。

「…あ!俺そういえば日直じゃんけ。日誌書かないと!」
「そういう訳で、こっちは任せて」

高良がヒラッと手を振って、教室から出て行った。

ーーー覚えてくれてたんだ。俺が日直って。

その何気ないことが嬉しくて、つい口元が緩みそうになる。





日誌を書き終えた頃、ガラッと教室の扉が開いた。

高良かと思って顔を上げたら、そこには予期せぬ人が立っていて。

「あ?何してんだよ、こんな時間に」

入ってきたのは田中氏。

「環境委員と日直の仕事が重なって…」
「ふーん」
「田中氏は?なんでそんなホコリっぽいん」

田中氏はなぜか汚いモップを担いでて、肩もホコリだらけになっていた。

「俺?説教されて倉庫の掃除をさせられてた。ヤバくね、このホコリ」

田中氏がモップを無闇に振ったせいで、ぶわっと教室にホコリが舞う。

「こら!振り回すなって…!」
「天城すげーホコリ付いてんね、どした?(笑)」
「え…他人事!?」

ゲホゲホと咳き込むと、田中氏が「わりー」なんて笑いながら床にモップを置いた。

それから、ポンポンと肩のホコリを叩いてくれる。

「天城、瞼にも付いてるけど」
「え!目に入るの怖い、取って!」

目に入ったら絶対に痛いじゃんけ!
そう思って慌てて目を閉じて、田中氏にグイっと顔を近付ける。

すると田中氏は、少し間を置いてポツリと呟いた。

「…うわー。そういう顔しちゃうんだ?」

その直後、顎を指先で掴まれて。

グイっと上を向かされた瞬間、教室に不穏な声が響いた。



「…何してんの」



高良の声。そう思ったと同時に、パッと目を開く。

そしたら田中氏の顔が思った以上に近くにあって、思わずギョッとした。

「え?」

俺がポカーンとしてる間にも、高良はこっちに歩いてきて。

無言のまま早足で近づいてきた高良に「ちょ、どしたん」と声をかけたけど、

だけど高良は黙ったまま、鞄を手に取ってそのまま背を向けた。

「…邪魔したわ。続きすれば?」

高良はそれだけ言い残して、教室から去って行く。

「…え!なに、どういうこと!?」
「あーあ、高良を怒らせた〜」

取り残されてパニックになった俺を、田中氏がからかった。

なになに、何が起こったの今!
今の1分を誰か分かりやすく解説してくれ!

「なにが『続きすれば?』だよ。ブチ切れるくせに」
「何の話してるん、ねえ」
「あいつのああいうとこ、たまに腹立つわ」

田中氏はそう言うと、俺のシャツの襟辺りを掴む。

ビックリしているうちに、唇をそっと寄せられて、痛いくらいに吸いつかれた。

「うわ!いっ、痛い!なに…」
「これで勘弁してやる。あーあ、萎えたから俺も帰るわ」

田中氏は勝手に自己解決して、そのまま教室から出ていってしまった。


ーーー何が起こった!?


首の自分じゃ見えないとこに、ジリジリと痛みを感じながら。
ポカーンと、夕焼けに染まる教室に立ち尽くしすかなかった、






翌日。寝不足のまま学校に来ると、一時間目から体育で。ウンザリしながら着替え始める。

「天城、それ…」
「え?」

後ろの方で香取が呟いて、なんだ?と思ってキョトンとする。
口をあんぐり開けてる香取が、何が言いたいのかよく分からん。

首を傾げていると、いきなり背後から手首を掴まれた。

「…それ、なに」

ギョッとして振り返ると、そこに居たのは高良で。

「え?た、高良?」

目を大きく開けて、信じられないものを見たような顔をしてる高良。

「…それ、あのあと田中に付けられたん」
「なにが。昨日から訳分かんないって、はっきり言ってよ」
「だから…」

高良が焦ったような声を出したと同時に、

「俺がつけたよ。な、あまりん」

田中氏が話に乱入してきた。
その声はあまりにも、高良を挑発してるみたいで急に不安になる。

ーーーけ、喧嘩してる!?

「は?お前いま何て言った?」
「あ?だから、天城の首にキスマーク付けたのは俺だって」

きすまーく…キスマーク…!?

ふと昨日痛かった場所を思い出して、バッと首に触れる。

「かかか香取、ここなんか付いてる!?」
「無自覚だったんだな…さすが天城」

香取が唖然と答えた様子を見るかぎり、絶対つけられた!

何してくれてんの、田中氏…!!


「ま、待って!高良、違うから。俺は…」
「天城のこと信じてた、俺が馬鹿だったわ」


高良から発されたその言葉が、あまりにもショックで。


「え、なに田中と天城ってデキてんの?」
「天城を取り合ってるってこと?意味わかんね、ヤバくね」


ザワザワと騒いでるクラスメイトに、どうしたら良いか分からなくなって。
教室を出ていってそのまま走り出した。


ーーー俺また、空気読めなかった。何も言えなかった…!


大切な人を傷つけたことに、思わず涙がポロポロと出てきた。






ーーー



(田中視点)



「あーあ、あまりん泣いちゃったじゃん」

高良を茶化すように言ったら、胸ぐらを掴まれた。

「あんま調子乗んな」
「かわいそ天城くん。俺が勝手にキスマーク付けただけなのに」
「…は?」

意表を突かれたような顔をする高良の腕を掴んで、胸ぐらを掴んだきた指をほどく。

「お前さ、ポッキーゲームの時もそうだったけど。そんな余裕ぶっこいてたら誰かに取られても仕方ねえべや」

わざと煽るような言い方をしたら、すっかり殴る気力もなくしたらしい。


ーーー自分で天城に言ったくせに、自分で傷ついてんのかよ。


ザワついている教室で、予鈴のチャイムが鳴った。他の男子生徒は全員、慌ててガヤガヤと体育館に向かって走り出す。


「…お前、何がしたいの」


高良が、聞き取りづらいくらい小さく呟いた。

ため息をつきながら教室を出る。



「ちったあ自分で考えろ。ばーか」





ーーー



(天城視点)


放課後。足早に帰ろうとしたら、高良が俺の机の前に来た。

「…高良?」
「朝はごめん。…一緒に、帰っていい?」

ど、どうしよう。
まだ昨日や朝の出来事の整理もできてないのに…!

「お、俺こそごめん!正直なんも分かってなくて」

とりあえず謝らないと。そう思って二人で話してたら、
いきなりA組の一軍男子が、俺の肩を掴んできた。

「天城ってそっちなん?田中と高良のセフレってマジ」
「…え」
「高良、俺にもお零れくれね?一回くらい人生経験で男と…」


いきなりそんなことを言われて。

ジク、と心が痛くなる。
心拍数が跳ね上がる。どうしよう、ここにいるのが怖い。


そう思っていたら。


「やめろ」


高良がそう言って、止めてくれた。
そのことに、びっくりして口をぽかんと開けてしまう。


「天城はそんなんじゃねえよ」
「じゃ何」
「…そんなんじゃなくて」


高良はクラスメイトを睨みつけたまま、言った。


「俺、天城とマジで付き合ってるから。…悪いけどそういうの、やめてくんね」


そう答えてくれたのが、あまりに嬉しくて。
ポロポロっと涙が落ちた。


「晴れて公認じゃん。良かったな〜あまりん」


ふと会話に入ってきた田中氏が、そんなことを言って俺と高良の肩に腕を回した。
二人が仲良さそうにしてることにも、なんだか安心して、


「~~~っ、もう何なん、二人に振り回されて意味わからん…」


結局は高良と田中のなかで、勝手に解決されちゃったけど。


「ごめん。…今度から、俺のだってちゃんと言うから」


許してください、なんて言ってくれた高良に、
コクコクと頷いて。


「俺も高良のって、ちゃんと言う…」


なんて、泣いて掠れた声で、精一杯答えた。


END







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