この春の顛末


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ついに柿本さんバレする高天





(天城視点)


やべー、やっちゃった! 体育なのに体操服まるごと忘れてたのは流石にヤバいって。

上下丸ごと貸してくれる人とか、もう他クラスにしか居ないじゃん。

「え、秋山?居ないけど」

わざわざC組まで来たのに、居ないんかい。

どうしたものかと思っていたら、廊下で友達と話し込んでいた田中氏と目が合った。

「何してんのあまりん」
「体操服がなくて」
「えーマジで鈍臭いな」

うわ、出た!毒舌な田中氏。そこまで言わなくても良いじゃんけ。

チクチク言葉がグサッと来たとき、田中の隣にいる男子生徒が声をかけてくれた。

「…俺の貸す?」
「え?そんな、ほとんど初対面なのに…!救いの神かよ」
「うわ、最高なリアクションしてくれんね。取ってくるわ」

そう言って、その男子生徒はB組へと去っていく。

高良とはまた違うタイプのモテメンって感じ。めちゃくちゃ有り難すぎる。

「柿本だっけ。めちゃくちゃ良い人ですな」
「あーあ、よりによって柿本か。知らねーぞ怒られても」
「?なんの話し?」

一緒に廊下に取り残された田中だけが、ニヤニヤと面白そうな顔をしていた。




ーーー



体育中。柿本の服のめちゃくちゃデカくてびびった、こんな身長差あるん。

屈んでズボンの裾を上げていると、ふと上から高良の声がした。

「天城、その体操服…」
「え?」

上手く聞こえなくて顔を上げると、その瞬間に高良が固まった。

「…え。柿本って」
「え?ああ、さっき借りた!体操服の一式丸ごと忘れちゃって」

あはは、と笑って誤魔化した。そういえば、体操服を借りるなら高良に借りろって言われてたっけ。

「脱いで」
「…え?いやいや何言ってるん!」

高良が服を引っ張ってくるのを、何とか止める。そんなに嫌だった!?

「俺のと交換して。頼むから」
「無理!ここ体育館だし、今更そんなこと言われても!」

珍しく取り乱してる高良にめちゃくちゃビビッて、なんとか逃げようとする。

慌てて逃げて後ずさると、高良の顔色を伺った。

「お、怒ってる…?」
「怒ってるとかじゃない。不快なだけ」
「そこまで言うか」

いやいや、でも高良に借りたら、高良が体育出られなくなるし。やっぱり今回はこうするしか…。

「…それ、このあと返しに行くの」
「うん。七時間目に使うから洗濯しなくていいって」
「え?天城が使用済みのやつを使うって?」
「ちょ…言い方!」

別に汚くないやい!汗かかないようにするし!
俺の事なんだと思ってるん。バイ菌か?

「…俺もついてく」
「え?いいのわざわざ」
「とにかく一人で行かないこと。それから体育の前日は、忘れ物ないか確認するんで」
「お母さんか」

お願い、と顔を近づけて言われて。

なんでそこまで?仲悪いんかな、なんて考えながら、勢いに押されてコクコクと頷いた。



ーーー


(高良視点)


「あれ?なんで高良もきてんの」

きょとんとしている柿本に、はぁ…と長い溜め息をつく。

「別に、柿本に会いに来たわけじゃないんで」
「あ?舐めてんのかお前」

柿本と二言三言かわしていたら、天城が遠慮がちに体操服を差し出した。

「ごめん、これ貸してくれてさんきゅ!」
「ぜんぜん。泥だらけで返してくる田中よりマシだし」
「あはは!さすが田中氏、ぶっ飛んでるわ」

二人が楽しそうに会話してる間も、気が気じゃない。

「汗臭かったらマジでごめんな」
「大丈夫じゃね?天城くん爽やかそうだし」

そう言いながら、柿本が体操服に顔を近づけて、

なに、こいつもしかして匂いを嗅ごうとしてる?って気づいた瞬間には、思わず手を伸ばしてた。


「…は?さっきからなに」


慌てて柿本の体操服を奪うと、自分でも挙動不審すぎてドン引きする。

「……でさあ、体育館裏の自販機がおしるこ一択だったわけ。マジで体育のあとの水分補給に向いてねえって話」
「お前ほんと、話の変え方キモすぎんだろ」

柿本がそう言った途端、「はーん、なるほど…」と何か悟ったような顔をする。

「…天城くん、ちょっといい?」
「え?な…なに!」

その直後、柿本が不意に天城に顔を近づけた。

「金ならないけど」
「カツアゲじゃねえから。まつ毛にゴミついてる」

柿本がふと、天城の頬っぺたを掴んで顔を近づけて。

今にも唇が触れそうな距離になって、



「…やめろって」



慌てて天城の手を掴んで、自分の腕のなかに引き寄せた。

すると柿本が、機嫌よさそうに不敵に笑う。


「お前が優也になんかしたら、分かんないかも」
「…は」


そう言うと、柿本はパッと手を離した。


「天城くんは人質ってことで」


気を良くしたらしい柿本は、それだけ言ってB組の集団のなかに戻って行った。


「…だから、あいつにはバレたくなかったのに」
「ちょ、た…高良」
「優也に手出すわけなくね、普通に天城のほうが優勝してるんで」
「高良?ちょ、ここB組なんだけど…」



抱きしめたままの天城が真っ赤になってることにも気付かずに。


はぁ…と大きなため息をついて項垂れた。


END









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