ホラー映画
高良の家にお泊まりにきた。学校だと高良と話せる時間も少ないし、話す内容も何もとなく気を使う。
だから気兼ねなく何でも話せて、そのうえ手を繋いだりもできるお泊まりが嬉しい。
「今日もホラー映画…?」
ただ、お泊まりのときに定期的に観ている、ホラー映画だけは本当に嫌い。
「見たいのあるんだよね、クワイエット・プレイスってやつ」
その映画は知ってる、「音を立てたら、即死。」 みたいなキャッチフレーズで話題になってたやつ。
「音を立てちゃったら化け物がくる、みたいな映画だっけ」
「そうそう」
「チラッと化け物の画像だけ見たことあるけど…高良が描いてたチワワに似てるよな。超怖かった」
「煽ってんの?」
ジワジワくる怖い系じゃないなら、なんとかなるかな。そう思って渋々と見るのを了承する。
映画が始まって30分後。
「…大丈夫?」
「静かに!やつが来る…!」
ビクビクとしながら高良にしがみつく。やっぱり無理、この映画めちゃ怖い。
しかも高良、意地悪してワザと大きな音をたてて怖がらせてくる。
その度にギャーギャーと騒いで喧嘩をしながら、何とか2時間を耐えきった。
−−−
「…怖い。一緒に寝て」
寝る前、部屋を出ていこうとする高良の服の袖を掴んだ。今ここで離れたら怖すぎて眠れない。
「無理。一人で寝て」
「やだ!責任とって」
「…責任とって?」
え、なんで復唱したん。ポカンとしてたら、高良が横に座ってくる。
「じゃあ天城が上手におねだりできたら」
そう言いながら、微動だにせずこっちを見つめてくる高良。
おねだり?って、どういう意味?
「高良様どうかお願いいたしまする…民が飢えております」
「いやどこの民。笑 もっと可愛く」
「えっ」
これもしかしてアレか、恋人らしいおねだりってことか。
え、え、どうしよう!甘えたり…キスしたり…?普段あんまりそういうことしないからすごく困る。
でも一人きりにはなりたくないから、ここはやるしかない。
「…よし、天城太一いきます!」
バッと立ち上がると、座ってる高良の膝のうえにお邪魔する。
高良は俺を見つめたまま、なぜか硬直してる。うわー恥ずかしすぎる、キスするまで平静が保てない。
「…っ」
ふに、とキスをしてみた。
それと同時に俯いて、バクバクとする心臓を抑えて目を閉じる。うわわわ本当にやっちゃった…!
「…これでいい?」
恐る恐ると尋ねてみたら、両手で顔を隠して俯いている高良。
なんのリアクションもなくて、ちょっと不安になる。
「もう1回」
「え?」
「天城からして。長いやつ」
なんですと?人の弱みを握ってるからって、さすがに要求が高すぎん?高良ひどい。
「む、むり」
「じゃあ下で寝ようかな」
そうは言ってるくせに、膝から俺を下ろす気ないじゃん。めちゃくちゃ手でホールドされてる。
…今日ばかりは、一人で寝られないし。腹を決めて、もう一度ゆっくりキスをする。
「…っ…」
怖がりながら、初めて高良に舌を入れてみる。すると、舌先でクルクルと舐められた。
びっくりして離れようとしても、高良は離してくれない。それどころか、お腹のなかに手を入れられそうになる。
「…っ…、たか…」
名前を呼んだら、ハッとした様子で俺から離れる高良。
「じゃ、お休み」
バッと急に立ち上がる高良。
え。今の俺の努力なんぞや?ポカーンとしてたら、本当に高良に置いていかれる俺。
どうしていいか分からず、とりあえず香取に電話した。
「助けて、高良のチワワに襲われる」
『はい?』
−−−
部屋から出ると、ドアの外で座りながらポツリと呟いた。
「…無理、一晩過ごして耐えられない」
結局その夜は、天城から逃げるようにリビングのソファで眠ることにした。
END