譲れない(山天)
もうすぐ夏祭り。別に誰に誘われたわけでもないけど、何となく例年通り香取達と行くのかな〜なんて思っていた。
だからザッキーにお祭りに誘われたときも、「みんなで行こう」って意味なんだと思ってて。
何も考えずに「いいよ!」と返事をしたら、思わぬ言葉が返ってきた。
「よかった。天城と二人で行けるの嬉しい」
「え?」
「また連絡する」
ヒラヒラと手を振るザッキーを、目を丸くしたまま見送った。
待って、二人きりなんて聞いてないぞ。嫌なわけじゃもちろんないけど、これって良いのかな。
頭に浮かんだのは、高良の顔。
考えてみたらザッキーは友達なわけだし、深く考えることなんかないのかもしれないけど。
「…一応、報告しておこうかな」
高良にLINEをして、お祭りはザッキーと行ってもいいかを尋ねてみた。
その晩は結局、高良から返信は来なかった。
ーーー
(高良視点)
昼休み。チラッと天城の様子を見ると、また山崎に後ろから抱きしめられていた。
花火大会に二人で行ってくるかも、と伝えられたLINEにはまだ返信していない。
「…山崎、ちょっと天城借りていい?」
抱きしめられている天城の腕を掴むと、「え、高良?」と天城がびっくりした顔で俺を見る。
「今は俺のもの。やだ」
「やだじゃないから。離して」
「俺は天城いないと死んじゃう」
「…そんなの」
俺もそうだから、なんて言いかけたのを慌てて咳払いで誤魔化した。
そんな言葉を、簡単に口になんてできない。自分よりもずっと、ストレートに天城に言葉を伝えられる山崎には少し劣等感もあって。
「…夏祭り、二人で行くんだっけ」
2人に尋ねたら、山崎が頷く。天城はどうしたらいいか分からないと言った顔をしていた。
「なんで香取達と別なの」
「…なんでって」
山崎がシレッと答える。
「天城が好きだから」
そう言いながら、天城の頬っぺたに擦り寄っている山崎に思わず硬直した。
「こいつ今、なんて言った?」
「ちが…ザッキーの言葉に深い意味とかないって!」
「無理。連行するわ、天城はここにいて」
「ええ!?ちょ、ちょっと待って」
山崎の首根っこを掴んで、ズルズルと引きずって教室を出る。
クラスメイトからの視線には、無視を決め込んだ。
ーーー
人通りが少ない渡り廊下までくると、山崎から手を離す。本人は首を痛そうに曲げていた。
「天城のこと好きなの」
単刀直入に尋ねた。
「好きだよ」
「それは恋愛感情として?」
「恋愛…?かは分からないけど…」
少しだけ、考える間があった。
「誰にも渡したくないかな」
珍しく真面目な声でそんなことを言われて、急に焦りを感じた。
「同じ?」
ふと、山崎に急に尋ねられて困惑する。これって、お前も天城のことが好きなのかと訊かれてるのか。
「…同じ」
答えると、山崎は「ふーん」とジロジロと俺を見た。そう言えばちゃんと俺に視線を向けたのは、これが初めてで。
「なんで好きなら、一緒にいないの」
痛いところを突かれた、と思った。
自分よりも普段、友達として傍にいるやつ。
何よりこうして何でも、ストレートに言葉にできるわけで。
…手強すぎる。
「じゃあ、ライバルだな」
黙っていると、追い討ちのようにそんなことを言われた。
やっとの俺のことを認識しました、と言わんばかりの、宣戦布告のようにしか聞こえないセリフだった。
ーーー
教室に戻ると、天城が半泣きの表情で駆け寄ってきた。
「ザッキー大丈夫か、無傷!?」
慌てている天城を見て、複雑な気持ちになる。別に手出したりしないし。なんだと思ってんの、俺のこと。
「あのさ高良、花火大会のことだけど…」
天城が遠慮がちに、俺を見上げてくる。
すぐ相手に合わせてあげようとする天城は、俺が嫌だと言えば、断ってくれるんだろうけど。
「…今回は行ってきて。先に誘わなかったのが悪いし」
「え?」
「今度からは俺から誘うから」
天城の手首を掴みながら言った。ぼんやりしていると、誰かに取られてしまう。
この手をしっかり掴んでないと。
「…じゃあ、俺も誘うんだな」
山崎が、天城の肩を組む。バチっと合った視線は、お互いに絶対逸らさない。
「あ、あの…」
困ってる天城を横目に、結局は香取が山崎を回収するまで睨み合っていた。
END