この春の顛末


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環境委員になった日






天城が隣の席に座ってる。ただそれだけで心拍数が少しだけ跳ね上がって。

眠そうに揺れる頭がなんだか愛しく思えて見てたら、ふと視線が合った。

「…あはは、恥ずかし」

眠そうにしてたのを見られたのが恥ずかしかったのか、照れたように笑いかけられた。それだけで胸がドキリと音を立てて、鼓動はただ駆け足になっていく。

…恋ってこんな感じだったっけ。

冷たく波立たなくなった心は、加速度的に揺れ動きはじめてて。

心に残ってた雪は、春に溶け始めていくのが分かった。

ーー


スマホを制服のポケットにねじ込みながら、チラリと教室の前方を見る。

日直の女子が黒板を消していて、身長が足りないからか上の方を消すのに手間どっていた。

手伝いに行こうとしたと同時に、先を越される。

「…上の方、俺が消そっか?」

助けに入ったのは天城。ちょっとだけ背伸びをしながら、残った文字を消していく。

「えっ!ありがとあまりん」
「下半分は任せたぜ」
「わけるの?笑」
「早く終わらせた方が勝ち!」

誰にでも人懐っこくて、性格に表裏なんか少しもなさそう。

表情はコロコロ変わるのに、いつ見ても楽しそうに見えて。

「高良?誰みてんの」
「…お前に見えないもの」
「は?いつから不思議くんになったん。キモ」

田中に揶揄されても、何にも気にならない。

1人しか居ねえだろ。格好つけたりつまんねーことに躍起になってる俺らがバカみたいに思えるくらい、あそこだけ暖かくて陽だまりができてる



ー·····キーンコーン…



そうこうしているうちにチャイムが鳴って、休憩時間が終わる。次の授業は自習で、委員会を決めることになっていた。

クラス委員が前に出てきて、黒板に委員会の名前を書き連ねる。

「じゃあ、希望してる委員会のところに名前を書いていって」

そう言われて、立ち上がったのは数名。クラスの全体で見ると、乗り気なやつなんかほとんど居ない。

「天城、なんかすれば」
「え〜?帰宅部だからナシじゃないけど…」

視線は向けずに、天城の声を耳だけで拾う。

周囲で「委員会とかめんどくせ〜」と言ってくる田中たちの会話には、全部スルーを決め込んだ。

少しずつ名前は埋まっていくけど、環境委員だけがなぜか埋まらない。

「なんで環境委員、あんな埋まんねえの?」
「委員長がヤバいらしい。笑 環境委員に改革を!とか意味わかんねえこと言ってるんだと」
「なんだそれ、ウケる。笑」

教室全体で微妙な空気が流れていて、。「誰かいない〜?」かと呼びかけ続けるクラス委員が不憫になってきた。

「天城、環境委員やれば」

香取が、ぽつりとそんなことを言った。

いきなり他薦された天城は、ギョッとした顔で香取を見返す。

「えっ。香取はやらないん」
「人間が環境のために働くなんてエゴだろ」
「なにそれ、意味わかんなすぎ。笑」

あはは、と笑いながら席を立った天城がチョークを持つのを見る。この空気で断ることが出来ないのも、なんだか天城らしい。

その後ろ姿を追うように、すぐに席を立った。

「あ?高良なんかすんの」
「…点数稼ぎ」
「そんなん勉強してからやれよ」

最もすぎるツッコミを聞き流して、チョークを持つ。さっき天城が、黒板消しでなぞってた部分に名前を書く。

ふたつの名前が並ぶ。それだけのことが、なんだか特別に思えた。

「え、高良も環境委員してくれんの?」

この瞬間にも向けられている嬉しそうな顔に、特別な意味なんかないのは知ってる。

「高良ってもっとクールだと思ってた。優しい」
「…別に。天城も同じことしてるじゃん」
「俺らもしかして似てる?ウケるね、そんなわけないか」

笑いながら席に戻っていく天城。

そんな他愛のない言葉に、僅かな期待とか可能性を感じてしまう自分がいて。

「…暑い」

照れてほてった顔を隠しながら、席に戻る。体がジワジワと熱くなってきて、意識をそらすことに精一杯になる。

心に残った雪は、完全に溶け去っていった。


END


公式の隅々に、環境委員の委員長って過激派なんだなと思わせる描写がちらばってるの面白いですよね。


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