この春の顛末


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シーブリーズ



今日は環境委員の仕事当番の日。大きな積乱雲に照りつける太陽が、あまりにも夏すぎる。

校庭の花壇に植えられたヒマワリに、高良と水遣りをする。すっかり二人でいることにも慣れてきた。

それでも、片想いは進行中。

「高良、今日はマスクしないん」
「さすがに暑すぎ」
「ヒマワリの葉っぱもカラカラだもんな」
「真夏に咲いてるこいつら、マジで生命力すごくね」

背の高いヒマワリを見上げながら、高良が花びらをツンツンとつついてる。その仕草がなんか可愛くて、思わず笑ってしまった。

ホースを持って辺りを水に晒しながら、額の汗を腕で拭う。身体がほてってきたから、持ってきたシーブリーズを鞄から出して、首元にピシャピシャとかけた。

「天城、シーブリーズ似合う」
「瞬間、汗キュン!」
「そのポーズは謎すぎ。笑 良い匂いすると思ったら、それだったんだ」

高良が近寄ってきて、首筋の匂いを嗅がれる。

うわ、恥ずかし!近すぎるから。

「ぜ、ぜったい汗臭いって!」
「セクシーな香りだった」
「それを言うなら、高良のほうが…」

高良の方がいい香りだって、と言おうてしてやめた。つい高良の香水の匂いを意識してたのが、バレそうな気がして。

恥ずかしくなって俯くと、高良が顔を覗き込んでくる。

「俺の匂い、好きなん」

…そんなの、俺のキャパを超えるから答えられない。

もしかして俺たちっていい感じ?このくすぐったい空気、俺は照れちゃって耐えられない。

好きだと、思い切って答えようとしたとき。

ピシャリ、と空気を打ち破るように聞こえてきたのは、女子の声。

「高良ー!」

振り返ると、クラスの一軍女子がいた。あ、やっぱりこれが現実。

「今日一緒に帰ろ〜」

女子達からのお誘いに、高良がチラッと俺を見た。

今日は俺と一緒に帰る約束をしてたけど、そもそも俺はただのクラスメイトで、あっちは友達。

立場はわきまえている。

「いいよ、皆で帰りなよ」
「は?…なんで」
「え」
「あいつらと帰ってほしいの」

そう尋ねられている間にも、水やりは終わっちゃって。ホースの水を止めながら、なんて答えようか迷う。

…本当は、俺と一緒に帰って欲しいけど。

「俺は大丈夫!気を遣ってくれてありがとな」

それだけ伝えると、高良が持ってた用具をパッと取って用具室に走って向かう。

俺は一緒に居られたらそれでいい。

好きだから一緒にいる時間は笑ってたいけど、それ以上のものを望むのは贅沢すぎるし、困らせる。

今日話したことを思い出しながら帰れば、「楽しかったな」で終われるから。


−−−


帰る時にはすっかり夕焼け空。薄い月がぼんやりと浮かんでいて、少しだけ星が散ったオレンジの空を眺めながら帰る。

夏の夕焼け空って壮大。あまりに積乱雲の大きすぎて、自分がちっぽけに感じた。

「…ワガママ言えば良かったのかな」

本当なら、高良とふざけながら歩いていたはずの帰り道。

自分はすぐ我慢してしまう性格だから、仕方ない。それでも本当は、まっすぐに気持ちを伝えたかった。

後悔をしながら、長い長い一本道の先をふと見上げる。

そして、思わず目を瞬かせた。

「え?」

見慣れた金髪が夕焼けに染っていた。オレンジ色の背中はすごく綺麗で、思わず見つめてしまう。

なんで一人で歩いてるん。

それになんで、俺が花壇のところに忘れたシーブリーズを片手に持ってるの?

立ち尽くしながら後ろ姿を見つめてたら、高良がシャカシャカと振ってそれを手首に付けたりしていて。

その仕草を見ているだけで愛しくて。

感情が止められなくなって駆け出す。これって切ないのかな、舞い上がってるのかな。

それくらい今、胸がドキドキとうるさくて。

「…っ、高良!」

勢いよく走り出して、止まりきれずに高良に衝突する。

びっくりしながら両手で受け止めてくれた高良に、思わずキュンとする。

「…どうした」

高良の心臓のところに手が当たってる。高良も同じくらい心音がバクバクしてるってわかる。

余計に頭がこんがらがって、思わずパッと距離をとって。

「い、一緒に帰ろ…」

そう言ったら、「何それ」と言って笑われた。

その心を開いてくれてる感じの笑い方が好き。

照れた感じの笑い方が可愛くて、いつものクールな顔とは全然違ってて。

「走って汗かいたわ」
「これ、忘れもの」
「高良が使ってたの、見てたよ」
「…うわ…はず」

一緒に過ごせる、駅までのたったの10分や15分の時間。

そんな時間すら、つい欲張って高良と一緒に過ごしたいって思ってしまう。

END




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テーマ「人外ファンタジー」
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