この春の顛末


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黒髪の高良ってどうよ




(高良視点)


「高良くんの明るい髪色見てみたいなあ」

その言葉に、内心では少し苛立つ。それでも好きな子の言うことだからと、黙ってそのまま飲み込んだ。

嫉妬させようと男とばっかつるんで、要求ばかりが増えていく。俺が尽くしてることに満足してるだけって、本当は分かってるけど。

望むような幸せは、一向に訪れなくて。

「なんで金髪にしたん」
「見てみたいって言われたから」
「はあ〜?お前ほんと、好きな子のワガママ何でも聞きすぎ」

信じられねえわ、とドン引きする田中。別に髪色なんてどうでもいい。俺が譲歩した分、向こうも譲歩してくれたらいいなって思ってるだけ。

そんな話している間に、LINEの通知でスマホが鳴った。送り主は、隣のクラスのほぼ話したことない男子生徒。

「…何これ」

思わず声に出た。何が送られてきたのか気になったらしく、背後から覗き込んでくる田中。

「やっば」

送られてきたのは、『彼女さんに送って』というLINEとともに送られてきた、俺の彼女とそいつのツーショット写メ。

煽ってんのか、こいつら。

「…高良がよくても、俺が無理だわ。振ったれ」
「やめろよ」
「お前いつまで自己承認欲求に振り回されてんの。キショ」

分かってる。それでも「ダメなところ全部なおすから」「許して」なんて言われると、受け入れてしまう弱い自分がいて。

結局悪いのって俺だから。


−−−


(天城視点)


「天城くん、黒髪の高良ってどうよ」

昼休み、教室で田中氏に呼び止められて立ち止まった。

チラつかされたのは、黒髪でスケボーしてる格好いい高良の写真。

「え!その高良の写メほしい!」
「質問に答えたらやるわ」
「え…えー?」

人にこんなこと伝える機会ってないから、凄い照れてしまう。赤面してると、田中が意地悪そうに覗き込んできた。

「俺さ、あいつの金髪あんま好きじゃねえのよ」
「そうなん…なんで?」
「え?なんかムカつくから」

何それ、どういう心境なん。

でもお洒落な田中氏のことだから、一般ピープルの俺には分からないこだわりでもあるんかな。

「黒髪の高良は、見てみたいけど」
「あ?」
「…どっちがより好きってわけじゃなくて。高良のこと、少しでも知りたいだけ」

写真を欲しさに思い切って伝えると、田中氏はなぜかジッと俺を見つめる。

え、なにそのリアクション。面白くないからダメとか?

「うん、やっぱ天城くんいいな!笑」
「はい?」
「写メ送っとくわ。じゃあな」

田中氏はそう言って、ヒラヒラと手を振って去って行った。

なんの時間だったん今の。謎すぎる。


−−−


(田中視点)


「天城、黒髪の高良が見てみたいって」

俺ん家に向かう帰り道にそう言ったら、いかにも不快ですって顔をされた。

こいつの中で、この話はトラウマなのは知っている。

「…天城が言ってたん」
「黒と金、どっちかがより好きってわけじゃないらしい」
「何それ」
「高良を少しでも知りたいんだって。」

そう言ったら、高良がいきなり無言で立ち止まった。何を考え込んでんのお前。もういいだろ。

「…愛されてんね」

お前もそろそろ乗り越える時期だろ。

そう思いながら先を歩き出すと、高良は黙ったまま後ろからゆっくりとついてきた。


ーーー


(田中視点)

「え!高良、黒髪にしたん!」

翌々日。登校するなり、教室の隅から天城の声が聞こえてきた。

「…まあ、気分転換で」
「めっちゃ似合ってる!」
「あそ」

イチャイチャしてるのがおもろくて、馬鹿みたいに嬉しそうなバカの肩を後ろから掴んだ。

「黒髪時代の写真、ベタ褒めしてたって教えてあげたの俺だから」
「わ!写真もらったの内緒って言ったのに…!」
「はあ?褒めたたえろや」

天城が慌てて、俺の口を両手で塞いだ。

その仕草に眉をひそめながら、高良がスネあたりを軽く蹴ってくる。

「いてっ嫉妬すんなや」
「バカ。染めた理由、喋るなって言っただろ」
「んなこと言ってたっけ。忘れたわ。笑」

高良とヤイヤイ言い合っていると、天城が遠慮がちに袖を引っ張ってくる。

「…田中氏ありがと。やっぱりどっちも好きだわ」
「…あっそ」

なんだこいつ、嬉しそうに。

まあ、今回ばかりは見る目あったんじゃね。少なくとも、あの女よりは遥かにマシ。

そんなことを思いながら、うざったいほど幸せそうな二人が廊下に出ていくのを見送った。


END


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