この春の顛末


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ひかり







咳が止まらない。小学生以来に風邪をひいた。

開けるのも億劫で二日間も閉めっぱなしのカーテン。電気が消えたままの薄暗い部屋。

何時かを確認するのもだるい。熱が出たと学校で気づいて、放課後にまとめ買いした食料もそろそろ無くなる。

「……のど乾いた」

誰も居ない部屋でも、仕事もしねえ男が家に居座ってるよりは遥かにマシ。

ーー…ピンポーン

再び夢の世界に落ちる前に、インターフォンの音が部屋に転がる。

宅急便だろうかと無視をしてたら、ガチャガチャとドアノブが回される。

「……ゆうや?」
「柿本さん!大丈夫?」

ドアを開けたら、外の陽射しに一瞬だけ目がくらむ。

目の前には、半泣きで見上げてくるゆうや。両手には買い物してきたのかビニール袋をいくつもぶら下げている。

「兄貴に風邪って聞いて、走ってきた」
「……ああ」

顔を見て安心する。ありがと、という気力もなくて、壁によりかかりながら頭を撫でた。

「だ、大丈夫?」
「…きつい」
「部屋に行こ…うわ!家のなか真っ暗じゃんか」

ゆうやは上がり込むと、真っ先に電気をつけてリビングのカーテンを開けた。

明るくなった部屋に、開け放たれた窓から冷たい空気が入ってきた。空気が入れ替わって、少し気分が良くなる。

「柿本さんは寝てて!」

珍しく頼もしい顔で笑うゆうや。買い物袋から色々と取り出して、冷蔵庫にしまっている。

「もうここ、自分ちだと思ってるから勝手にするわ。笑」

そう言って、机の上の弁当箱をいそいそと捨て、流し台の食器を洗う。

食器棚からコップを取り出すと、買ってきてくれたらしいアクエリを並々と注いでくれた。

…確かに自分ち並に知り尽くされてる。

「ゆうやと住んでたら、こんな感じなんかな」
「あはは、俺がお兄ちゃんじゃん」
「バブちゃんになりたい気分」
「たまには仕方ないな〜」

ヨシヨシ、と言いながらベッドまで手を引かれる。横になると、頭をよしよしと撫でられた。

それから、ゆうやは「よいせっと」と立ち上がると、洗濯物のカゴを持って洗面所に去っていった。

……可愛い。いつの間に、俺の家事するところ見てたん。

「ゆうや、ありがと」
「んー?なにー?」

面倒見られるのっていいな。こうして無条件に甘えて許されるのって気分がいい。

「ここに居て」

熱のせいで潤んでいるのか、視界が少しボヤける。

「か、柿本さん…」
「ん?」
「弱ってるところも好きぃ」

感極まったように飛びついてくる、真っ赤なゆうやが可愛い。気づけば布団に潜り込んできて、猫みたいに腹のあたりで丸くなった。

何こいつ、バカ可愛すぎ。

「風邪ひいたら、今度から俺を呼んでよ」
「うん」
「意外に役立つでしょ、柿本さんのことよく見てるから俺」

ポカリよりアクエリ派でしょ!そんなことを言いながら、お腹にグリグリと頭を押し付けてくる仕草が愛おしい。

風邪ひいたときって、治るまでただ孤独に耐えるもんだと思っていた。

「甘え倒すけどいいの」
「しょーがないな〜」
「じゃあ寝るまで…そこ居て…」

寂しさのせいで眠れない夜。そんな日も、ゆうやが居れば眠りにつけた。

この笑顔と体温に救われる。

「おやすみ、柿本さん。大好き」

ゆうやが居れば、朝はやってくる。

END





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