今朝は天気がよくて安堵した。大好きな大和の、陸上の試合があるからだ。天気が良いと言っても、太陽燦々なわけではないから、走りやすい丁度良い天候だろう。
 会場で席を確保して、大和の出番に備えた。ここで不満が1つある。隣に座っている高尾だ。昼前、会場へ向かおうと玄関を出たら高尾がいたのだ。
 大和の走りに憧れている高尾ならば、この大会は見逃さないだろうとは思っていたが……、まさかオレに着いてくるとは。しかもちゃっかり緑間までいやがる。
 無駄に話しかけて来ないだけマシだ。

 そうこうしていると、競技者が集まってきた。その場で軽くウォーミングアップをしている選手たちを目を凝らして見る。大和はすぐに見つかった。周りの選手たちよりも頭2個分突き出ている、陸上部にしては長身な男。その姿を見つけただけで、甘酸っぱい気持ちが溢れ出そうだ。
 選手がスターティングブロックに足を乗せていく。選手じゃないのにオレまで緊張してくる。それほど会場全体が緊迫した雰囲気だ。
 スターターがスタート地点に立ち、ピストルを構える。一気に空気が張り詰めたとことに、

 パンッ――
 大きな破裂音が鳴った。一斉に走り出す。スタートダッシュの地点では、大和はまだ半分辺りの位置にいる。
 鍛えられた長く筋肉質な足が素早く動く。食い縛った大和の表情に、不意にときめいてしまった。……かっこいい。
 応援団の声も観客の声も耳に入らない。無音の世界で、オレは大和の姿だけを追いかけた。隣にいる高尾と緑間も、両手を握り締めながらその姿を凝視している。

 大和が先頭の選手を抜いた。ゴールまであと僅か。寸前で周囲の観客が固唾を呑んだ。
 ――勝ったのは、大和だった。
 オレは無意識に止めていた呼吸を再開した。大和が勝った。
 秀徳高校陸上部は、大和が出る短距離決勝戦の前の競技でも1位続きだった。最後の競技である短距離で大和が勝ったから、秀徳高校陸上部は全国制覇の栄冠に輝いた。
 オレは居ても立ってもいられず、興奮して大和を褒め称えてる高尾と緑間を置いて、大和が出てくるだろう出口へ向かった。


■□■□■□


 選手専用の出入り口から、ぞろぞろと人が出てくる。その中に大和を見つけた。

「大和っ」
「清志! ちゃんと見てた?」
「当然だろ」

 大和の顔に疲労が見える。練習キツかったんだろうな。

「大和、あの……これ、オレいつも飲んでるやつ。なんとなく疲れ取れる感じすっから、飲めよ」

 大和も自分で持ってきているとは思うが、一応オレがバスケ部で愛飲しているドリンクを持ってきた。これで少しでも疲労回復してくれると嬉しい。

「ああ、ありがと」

 大和はドリンクの蓋を開けると、5回6回と続けて飲み下した。口を離し勢い良く息を吐き出す。すると、電池が切れたように大和の頭ががくりと下がった。

「ど、どうしたんだよ……?」
「お願いしたいことあるんだけど、いい?」

 さっきとは打って変わって思い詰めた顔をしている。大和は答える間も与えずにオレの腕を取ると、少し進んだ場所にある茂みに入った。

「ちょ、大和っ?」

 急ぎ足で進んでいく。葉っぱが腕や顔に当たって、少し痛みを感じる。

「おわっ!」

 突然立ち止まった大和の背中に思い切りぶつかってしまった。
 大和は掴んだままだったオレの腕を引っ張り、木のある方へ移動させる。背を木に、正面を大和に挟まれた。

「マジでどうしたんだよ、無言とか……。何も言わないとさすがにキレるぞ」
「……俺さ、……練習中ずっと我慢してたの」

 大和が静かに口を開いた。

「我慢って、何を? 食べるのを?」
「オナニー」
「っ!!」

 不意の言葉に顔が熱くなる。こんな人気がない所でこんな話、一体何を考えているんだ。

「オナ禁してて辛いんだよ。清志は知らなかっただろうけど、俺……、毎日抜いてたからさ」

 オレと大和は体を重ねた事がない。高校生らしく、ただイチャついたり甘えたり、キスをしたり……まさしく「清いお付き合い」みたいな感じだった。
 性欲のせの字も無いような爽やかな男だったから、大和が毎日精を吐き出してるなんて全く想像できない。
 まあそんなオレも、実は一人でしていたのだが。大和とセックスできる事なんて考えていなかったから、大和の事を考えながら――大和に責められる妄想をしながら――自身を慰めていた。
 もしかしたら大和もオレの事を考えてシていたのか、と考えると急激に恥ずかしくなってきた。

「1ヶ月ずっとだよ? はは、ギリギリでさ……。……だから清志。今ここで、しない? 初めての性的なアレ、だけど……」

 とても言いづらそうな大和に、オレの方が申し訳なくなってきた。辛い思いをしている大和を放っておけるはずがないのに、それを態々聞いてくる大和はやっぱり優しい。

「ッ……仕方ねぇな……。じゃあ、口でしてやるよ」

 一世一代と言っても過言では無いくらいの、羞恥を覚悟して提案した。だが、その覚悟も大和の一言で突き崩される。

「それはダメだっ!」
「は? なんで……」
「恋人にそんなことさせられない!」
「するのが普通、じゃね―の?」

 オレの考え方が幼稚なのだろうか。恋人にフェラをして奉仕するのが、一番喜ばれる方法かと思っていた。

「俺個人の考え方だけどな? フェラってなんか……強姦、レイプ、AVみたいに、双方が恋愛感情を持ってない同士がやる行為だと思ってるから」

 よく判らなくて、呆然と大和を見つめる。

「だから、とりあえず! 清志の口は、俺とキスしてくれてたらいいんだよ」
「!」

 その一言で言い包められた気がした。大和の意見に反対はないから、素直に従おうと思う。

「……なら、どうやって」
「清志の手で擦ってほしい」
「わ、わかった」

 初めての性的接触が、野外での手淫。オレが承諾すると、大和は屈んだ。

「座ってた方が、やりやすくない?」
「お、おう……」

 大和は何の躊躇いもなくハーフパンツを膝まで下ろすと、下着に手を掛けて性器を出した。初めて見る大和のモノに、思わず凝視してしまう。
 無意識にごくりとツバを飲み込むと、頭上から大和の苦笑いが聞こえた。

「清志、……あんまジロジロ見るなよ」
「わ、わり……」

 膝の上で硬く握っていた手に大和の手が重なって、大和のモノへと導かれる。寸でのところで手を離された。……これ以上は自分で触れってことか。
 手が震えそうになるのを抑えて、性器に触れた。半勃ちだったからある程度硬い。オレのと全く違うように思えた。

 何度か手を上下に動かしていると、大和の吐息が乱れ始めた。上目に大和の顔を見てみると、頬を蒸気させて眉間に皺が寄っている。眦は朱色に染まり、半開きの口がとても色っぽい。
 大和の表情をずっと見ていると、涙の溜まった大和と目が合った。すると恨めしそうにオレを睨んで、肩に額を乗せてきた。髪の毛が頬を擽る。
 髪の毛から漂ってくる汗の匂いが、催淫剤のように感じて昂奮する。

「清志……」

 名前を呼ばれて、思わず下腹が疼いた。

「はは、清志のも勃ってんじゃん」
「……え!?」

 自分のズボンに目をやると、大和の指摘通りそこは膨らんでいた。何とも言えずにいると、視界に大和の手が入ってきた。ベルトを外してオレのズボンを寛げると、下着の中に手を入れてきた。

「ちょ、おい!? なんでオレも……!!」
「だって、勃ってたから」
「……、くっ……」

 大和がオレのモノを扱く。窪みに指を引っ掛け、先端を指先で擦られる。強すぎる刺激に頭が真っ白になった。

「あ、ん……ッ、オレがやってやるんだから、あっ、お前は触んなよっ」

 オレの反論も虚しく、大和はオレを弄るのをやめない。オレも快感に負けずに大和のモノを扱いた。
 再びオレの肩に額を乗せてきた大和が、肩を喘がせる。首筋にかかる大和の息に、目が回る程の熱に魘される。
 扱き合っていると、大きな腕が背中に回った。大和が悦楽に堪えるように、ぎゅうぎゅうと体を締め付けられる。オレも片手を大和の背に伸ばして触れた。
 大和の呼吸の頻度が早くなると同じく、オレも段々息が荒くなっていく。

「大和っ……、ん、あっ」
「おい、清志ッ……いくら人気がない場所だからって、デカい声で喘ぎすぎんなよ……っ」
「……るせぇっ」

 互いの手の動きが早まる。大和よりも先に、オレに限界が訪れた。

「ふ、――うあぁっ……」

 意識が朦朧として、大和のモノを握っていた手を動かせないでいると、オレの手の上から自分で握り動かしだした。大和の硬く大きな掌に包み込まれたオレの手。掌に感じる脈打つ肉茎。

「く、うっ……」

 そうして大和も達した。
 余韻が漂う中、大和が怠そうに動いてバッグから何かを取り出してきた。

「これで拭けよ」
「おう、さんきゅ……」

 ウェットティッシュだった。大和は既に拭き終えてたらしく、ハーフパンツを履いている。オレも掌と性器を拭いて、ズボンを履き正した。
 大和が立ち上がるから、オレも釣られて立ち上がった。なんだか居た堪れない空気が流れ始める。

「えーっと……帰ろうか」
「おう」
「…………俺の家、くる?」
「! ……あー、でも大和疲れてるだろ」
「じゃあ一緒に風呂入って寝よ」
「オレが泊まる前提か!?」
「うん」

 はじめて大和とエロいことをした。する直前も勿論恥ずかしかったけど、終わった後はより絆が深まった感じがして少し嬉しく思う。オレは静かに大和の隣に並んで、大和の家へ向かう為に駅へ歩いた。


2013/06/01 「くらり、眩暈」の続編/R18(詳細
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