「最近ズリネタなくて困る」
「ブッ……! いきなり変な話すんな!」

 何気なく呟いた下ネタに、火神は食べていた焼きそばパンを吹き出し顔を赤くした。服にボロボロと落ちた麺を拾うと火神はそっぽを向いた。

「大和はいつもマスターベーションをする時は何かを想像してるのか」

 恥じる様子もなく聞き返したのは氷室だ。アダルトな話にも冷静に参加するのがなんとも氷室らしい。

「タツヤまでっ」
「なに、火神はオナニーしねーの?」
「聞くな!」

 下ネタに耐性がないのは高校生として大丈夫なのか。高校の教室といえば95%の学年クラスが下ネタの巣窟だ。そうなれば火神にとって学校自体、地獄に感じるんじゃ……。
 火神の下ネタ耐性について頭を回転させていると、くいっと氷室に袖を引っ張られる。

「ん?」

 氷室はにっこり、と効果音がつきそうなほどの笑みを浮べている。

「オレをその、『ズリネタ』に使ってみるのは?」
「いやいやいや、あんた男でしょーが! その前に友人をオカズに使うとかできねーよ!」

 俺の言う事が理解できないと言いたげに頭を捻る氷室に、俺はオナニーについて力説した。横を見ると、火神が顔を真っ赤にしながら「あ〜〜〜!」と声を発して耳を塞いでいる。


「なるほど。友達で気持ちよくなったら罪悪感が湧くのか」
「わざわざ反芻しなくてよし」

 氷室は学習したのか何度も頷く。納得してくれたのはいいが俺の言葉を繰り返さないでほしい。改めて他人から聞くと恥ずかしいから。

「てか、火神生きてる?」
「…………」

 体育座りで膝に顔を埋めたままの火神の体を揺らす。隙間から見える耳が赤く見えるのは気のせいじゃないだろう。……ウブめ。

「……もうお前ら嫌い」

 どんよりと参った声音を漏らす火神に、からかったつもりはなかったが、やりすぎたかと心配になる。

「悪かったよー、でも火神の周りの人たちもそういう話するだろ?」
「……する、けど。大和とタツヤとはそんな汚い話したくねぇし、話してるとこも見たくねぇ」

 幼児のように膨らませた火神の頬を突く。

「汚いってねぇ……、生理現象のことだし」
「んなことより自分たちの学校の話しようぜ……」

 強制的に話題転換しようとする火神を、氷室が鼻で笑う。

「こんな話も楽しくできないなんて、子供だなあタイガは。そんなんじゃ好きな人に嫌われるよ」
「え、火神って好きなヤツいんの!?」
「大和のバカ野郎聞くな!」
「え、ひど」

 純粋に興味があって聞いただけなのに火神に罵倒される。ショックだ。すると氷室が意味深に笑んだ。

「大和には言えない相手だよ。ね、タイガ。……いや、大和だから言えないのかな」
「タツヤそれ以上はやめてくれよ!」
「すっごい気になる」

 疎外感が俺のHPを削っていく。この会話だと、氷室は火神の好きなヤツを知ってんのか。俺だけ知らないって……なんだか傷付くな。
 2人と俺の間にギロチンの刃が降ってきたかのように、一瞬で溝が出来た。


2013/03/05 ピュア火神→主←セクシー氷室
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