誠凛高校バスケ部を仕切っている相田リコという男は――大の人間嫌いだ。

 どうしてバスケットボール部のカントクになったのか。それは育成するのが好きだから。でも、それはゲームの中での話であって……。
 人間を否定していながらも心のどこかで興味があったのだろうか。しかし人間嫌いのリコは、好意を寄せている『人間』がいる。


・・・ ・・・ ・・・


「大和くん! 今日も来てくれたんだ」

 バスケ部ができて1ヶ月が経った頃から、毎日というほど足を運んでいる男がいる。――嵯峨大和。
 リコと同じ学年で、リコが好意を寄せている『人間』だ。

「あたりまえじゃん。見てるの楽しいし、好きだからね」

 リコが話しかけるなり、大和は満面の笑みを湛える。自分より大きくて男らしい大人の体つきと、歳相応の少年らしい表情のギャップにリコの心は激しく震える。

「でも、バスケ部には入らないよな。どうして?」
「俺にはバスケできないし。……ぶっちゃけ言っちゃうと、カントクなリコを見てたいから、って感じ?」

 大和の弁舌はふわふわと不安定で、リコをひどく甘い気持ちにさせる。発言の1つ1つがピンク色の泡となって心臓に積もる感覚にはもう慣れた。……大和といると気持ち良い。このまま溶けて消えそうなくらい。

「リコ? どうしたの? 元気ないよ」
「…………好き」

 無意識に口が、勝手に筋肉が、動いた。上に見える大和の表情は微かに目を大きくさせただけ。
 普通はもっと驚いて、拒絶するはずだろう。男に、同性に告白されたんだ。しかし大和はいつもと変わらない緩んだ笑みを見せながら、リコの頭を大きな手で乱暴に撫でた。

「嬉しいな〜。両思いじゃん!」

 抑えることを知らない声が体育館に広がると、部員たちの目が一斉に向けられる。
 見てねぇで練習しろ! ――と怒鳴りたかったが、大和がそれを許さなかった。両頬をむにっと力強く挟まれる。いつもより近くなった大和の顔に、リコの心臓が狂ったように暴れる。

「ちょ、ちょっと……! にゃにしゅんにょ、ここ体育館っ」

 頬を潰されているせいで上手く発せないが大和には伝わっているはず。それでも頬を放す事も顔を近づける事もやめない。
 困った。日向君たちの視線が痛い。必死に押し返そうとするが圧倒的な力の差で敵わない。ひと思いにすればいいものの、じりじりと焦らすように近づくのが大和らしい。

「にぇえ! ここどこだと思ってるにょ! はーにゃーせー!」
「ふふ、リコったらにゃんこみたいで可愛い。にゃーにゃー」

 調子が狂う。好きだから強くも出れない。なんとも言えないドキドキが涙になって溢れでてきそう。大和は打って変わって付きだした唇をリコの唇へと押し付けた。口を塞がれたリコは視線を動かすことしかできない。
 日向たちに見るなと睨みを効かすが気づいてくれない。んーんーと唸っていると漸く放してくれた。

「――ッ、こういうのやめてよ! もっと好きになっちゃうだろ! ……あとお前ら! こっち見てんじゃねー!」

 リコは叫ぶと大和の腕を掴み体育館を出た。


2013/02/25 人間嫌いなリコ、だけど男主は大好き
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