新任教師として、帝光中学校に配属となった大和。教師になって初めて受け持ったクラスは、とても独特だった。赤髪の赤司征十郎という男子生徒がクラスを支配しているような雰囲気で、教師の立場の大和でさえも後ずさるほど。
 オーラに気圧されて、早々にストレスを感じた大和は放課後、体育館裏で煙草を吸っていた。煙を噴き出すと、背後の引き戸がガタガタと開く。そこから登場したのは水色の髪をした生徒。
 この子は確か……赤司君と同じクラスの、と頭の中で名前を探し出すのと同時に、携帯灰皿に煙草を押し込む。

「黒子くん、だったよね」
「テツヤです」
「え。テツヤ、くん」
「テツヤです」
「――……テ、ツヤ?」
「はい」

 強引に呼ばせた名前に「大和先生からの呼び捨て……」と黒子は頬を赤らめる。開いたままのドアから、もう一人外に出てきた。

「やあ、先生。黒子、こんな所で何してるんだい?」
「お話してるんです」

 ふむ、と頷くと、黒子の隣ではなく大和の右隣に腰を降ろした。何故黒子の横に座らないんだろう、と赤司を盗み見る。
 数秒じっと見ていると赤司の顔がバッと大和の方へと向いた。内心驚きながらも、話しかけたそうな表情に耳を傾ける。

「俺、先生が新任してきた時から気になっていたんだ。俺は先生に興味があるのかもしれない」

 純粋な目で語られる。生徒に興味を持ってもらえる事はとても嬉しいしありがたいことだから、無難に「ありがとう」と返した。
 赤司は大和の目を見つめながら太腿にするりと手を伸ばす。全身に驚きを散らしながらさすさすと動く赤司の手を止めた。

「な、なにしてるんだ赤司くん……」
「スキンシップですよ」

 不敵な笑みを浮かべて答える赤司はもしかしたら問題児なのかもしれない、と頭のなかのブラックリストに書き込んだ。
 そういえばテツヤは、と左を向くと携帯が此方に向いている。ただ使っているにしては違和感のある位置に、即座にカメラを向けられているんだと分かった。

「テツヤ、俺カメラとか苦手だから……」
「大和先生! もっと笑って下さいっ」

 リクエストに答え、引き攣り気味に口角を上げた。取れ高が良かったのか興奮しながら携帯のボタンを連打する。今度は右の赤司に袖をくい、と引かれた。

「テツヤ、ってなんです。どうして名前呼びなんですか」
「あ、いや、そう呼んでって言われて」
「じゃあ俺のことも名前で呼べますよね。さあ、征十郎って」
「……征十郎」

 満面の笑みに思わず胸を打たれてしまった。歳相応な表情に顔が綻ぶ。
 赤司は、ならばと興味津々に大和の腕ごと引っ張った。

「俺と黒子、どっちが好きですか」
「そういうのは良くないと思うんだ……教師として」
「それ、ボクも気になるんですっ」
「えっ……」

 両腕を掴まれて逃げられない状態。左右からの圧力が物凄い。
 無言を貫いていると、二人が同時に大和の膝にのしっと跨がってきた。柔らかい尻の感触が伝わってくる。

「ちょっと退いて! 密着し過ぎだよ!」
「どっちが好みかを言ってくだされば良いだけです」
「いやいや、教師に依怙贔屓しろっつってんのか!」
「どうして依怙贔屓になるんです? ボク達がただ単に知りたいだけなのに」

 ずい、と顔を接近させる二人に大和は気が遠くなりそうだった。正直な所、まだ二人の事は詳しくは知らない。外見ならどちらが好きかと問われた大和は、またも「それも決められない」と答えた。
 むむ、と言い淀むと次々に「無関心! 意地っ張り! むっつりすけべ! 教師の卵!」と悪口のつもりなのかよくわからない言葉をぶつけられる。
 その口を塞ぐために赤司と黒子の頭を自分の肩口に押さえつけた。ふわふわしている赤と水色の頭を乱暴に撫で付ける。

「どっちも好きだよっ、これでいいか!?」
「……三十点です。――次に期待しますね、センセ」

 妖艶な笑みを浮かべた赤司が大和の頬をするりと撫でると、黒子と共に膝の上から退き立ち上がった。
 頬を撫でられたことに唖然としていると、左頬に柔らかい唇の感触が。視界には水色の髪の毛。ワンテンポ反応が遅れ振り返ると、もう赤司と黒子の姿はなく扉が閉まっていた。

「――な、なんだったんだ……一体。ていうか、次っ?」


2013/02/13 主が二人に迫られる。どっちが好きか問われるも決められない
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