短時間でも大和に会いたい青峰は、授業が終わる休み時間ごとに自分の教室から飛び出していた。普段よりも大きな歩幅で大和のいる教室へ近付いていく。

(同じ学年なのに階が違ってどういうことなんだよ)

 あと一時間授業を受けたら放課という時間帯だが、青峰は大和に会いたくてしょうがない。ドアから顔を覗かせても、大和は面倒臭そうな素振りは全く見せないし、逆にいつも笑顔を返してくれる。その笑顔を何度も見ているのに全く慣れない青峰は会う度胸をときめかせていた。
 階段を降りて角を曲がれば大和のいる教室だ。緩んでいた口元を引き締め角を曲がる。廊下に大和はいた。いつもは教室の中で青峰が来るまでボーッとしているのに、廊下で女子生徒と話している。

(なに楽しそうに話してんだよ……)

 ここまでの道のり、青峰の脳内は大和の事だけで占領されていたというのに、大和は青峰以外を考えていた。話していた。見ていた。笑っていた。

(ムカつく。大和はオレじゃなくても笑うのかよ)

 その光景が青峰の胸を深く傷つける。あの二人を、自分以外に笑顔を向けている大和を見ていたくなくて青峰は踵を返した。
 階段を上っていると俯いていた視線の先にポタポタと雫が垂れるのが見え、青峰は困惑した。

(なんでオレ泣いてんだ。大和が楽しいなら良いことじゃ……)

 バスケの練習にも行っていない青峰は、この不可解な苛立ちをどこにぶつければいいのか分からないまま放課後を迎えた。



(休み時間、大和のとこに行かなかったの付き合ってから今日が初めてだ……)

 屋上に行く気もしなくて出席した授業も、ずっと上の空だった。あの光景を見るまでは軽かった足を玄関に向かって一心不乱に動かす。ロッカーから靴を出し爪先を入れたところで、聞き覚えのある声が青峰を呼び止めた。

「青峰っ、待ってたよ」
「……大和」

 大和を前にするとやっぱり胸が高鳴る。どんなに嫌な事があっても、大和がいれば――。

「最後の休み時間来なかったね。いつも来てくれてたのに、どうして?」
「誰かと話してるんじゃねーかなって思ってやめといた」
「ふーん……」

 意味を含んだ眼差しを青峰に向ける。青峰はずっと大和の足元を見たまま視線をあげようとはしない。

「一緒に帰ろうよ」
「おう……」

 反対側の靴箱から取り出すと、青峰よりも先に履き終え待っていた。青峰が履き終えた瞬間、手を取り足早に玄関を出る。握られたままの手が熱を帯びたように熱い。ぎゅっと手に力を入れると、大和が自分の方を振り向く気配がした。

「青峰、今日俺の家来る?」
「……行く」

 大和の家は学校のすぐ近くある。だから一緒に帰るといってもほんと十数分だけだ。繋がれているこの手が恥ずかしくも嬉しくて、つい頬が緩む。



「おじゃまします……」
「どーぞ」

 大和の家に来るのは今日で三度目。帰りは一緒なのに家に入った回数は少ない。部屋に入ると、大和の匂いが充満していて昂奮してしまう。大和がいないうちに大和の匂いをチャージしようと、ベッドにうつ伏せに寝転がり枕に顔を埋める。
 鼻から思い切り吸うと、大和の匂いがして下半身が疼いた。自分の吐いた息が少しだけいつもより熱く感じる。大和の枕やシーツからの匂いを堪能していると、部屋の前から大和の足音が聞こえたので、素早くベッドから退いた。

「ジュースとかお菓子持ってきたよー」

 お盆にオレンジジュースとポテチやポッキーなど定番のお菓子を沢山乗せて部屋に入ってくる。

「……青峰、なんか今日暗くない? 熱でもある?」

 四つん這いで青峰の方に這うと、片手を青峰の額に当てた。途端、青峰の眦に涙が浮かぶ。焦った大和は、青峰の頭を抱いた。間近に曝された大和の鎖骨に、青峰はドキリとした。

「青峰、どうしたっ? 何か嫌なことでも……」
「お前だよ」
「えっ?」
「大和のせいでオレは苦しんでんだよ」

 するりと腕を解かれ、大和が視線を合わせてくる。滲んでボヤけて見える青峰の視界でも、輪郭がわかる程大和の顔が近くにあった。
 慰めのつもりなのだろうか、頭を撫でながら青峰が口を開くのを待っている大和の口に、自分の唇をぶつけた。
 歯と歯がぶつかり痛みを伴ったが、衝動に抗えなかった。唇を重ねたまま大和の首に腕を回すと、大和が青峰の背中に手を添えて応えてくれた。長い間唇を貪っていると、大和の胡座の上に跨がる形で密着していて――。

「青峰、勃ってんじゃん」

 クスッと笑われ、顔が熱くなった。大和とはまだセックスをしたことがない。怖いのだ。抱かれた瞬間、大和に冷められたらどうしよう、という恐怖だけが巡ってしまって……。中々至れないでいた。

「うるせぇっ……、オレは今日! 何がどうなろうと大和とはエロいことしねぇからな!」

 オレは怒ってんだ、と叫ぶと目の前の大和はポカンとしていて、青峰は学校でのあの光景を再び思い出してしまい慌てて大和から離れた。

「なんで? 俺のこと嫌いになっちゃったの?」
「嫌いになったのは、大和の方だろ! 俺がいるのに女子と話すなよ! 他のやつに笑うなよ!」

 涙をボロボロと零しながら、大和の胸を殴る。何度も殴っていると両手を絡め取られた。振り解こうとしても大和の握力が強くて敵わない。両手を掴まれたまま、後ろのベッドへと縫い付けられ、困ったようには笑った。

「俺は青峰を好きなんだよ? 他の人と話したって笑ったって、頭の中は青峰だけだし。矢印は青峰にだけ向いてるから」

 何も心配すること無いのに……、青峰の耳元に顔を寄せ囁いた。
 手首を掴まれていた大和の手はいつの間にか力が抜けていて、その両手で大和の後頭部を愛おしげに抱き締める。

「なあ、名前で呼んでくれよ……」
「大輝」

 自分の名を呼んでくれた、やっと。ずっと大和の声で口で呼ばれるのを待っていた。自分の三文字の名前が胸に沁みてくる。

「エッチなこと、しよ? 大輝だけの俺が欲しかったんでしょ?」

 大和の右手が青峰の下半身に伸び、ベルトを外す音がした。この行為の度に緊張してしまう。

「大和はオレのこと嫌いになんないんだよな、絶対に」

 ズボンを膝の位置まで下げると、パンツの中に大和の手が忍び込んできた。

「ぜーったいに嫌いになんない。ずーっと好き。大好き」
(なんか、すげぇ嬉しい……)

 大和のキスで既に反応していた自分の物を握り込まれ、揉むように手を動かされる。

「ん、ぅ……大和っ、――んあァッッ」

 我慢汁が滲み出る割れ目を指先で擦られ、腰が揺れると同時に吐精してしまった。

「え、大輝早すぎ。もう出ちゃったの?」

 イッた後の真っ白になった脳に大和の笑い声が響いたが、反論もできないくらい気持ちが良い一瞬だった。
 額、両瞼、両頬、鼻先、唇。顔中にキスの雨が降った。


2013/01/18 主と女子が会話してるのを見て嫉妬。甘
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