最近大和は、ベビーシッターの仕事を始めた。大和が初めて担当としたのが、母親はジュエリーショップの経営者で父親がプログラマーという両親共に忙しいという家庭の子供だった。しかもその子は、親の趣味なのか生まれ付きなのか髪の毛が黄色い。人懐っこくて、突然家にやってきた大和にも警戒心を抱くこと無く寄ってきた。
 ただ疑問なのが、子供らしいあだ名をつける事に対して、幼いながらに体育会系の口調だというところか。

「涼太くーん。お昼ごはんは何食べたい?」

 子供を一人だけにしておくにはとても広いリビングに大和の声が響く。
 ローテーブルで絵を描いていた涼太がクレヨンを放り投げ対面式のキッチンに居る大和目掛けて走ってきた。

「オムライスがいいっス!」

 大和の足に抱きつき辿々しく言う。

「またオムライスか? 別のにした方がいいんじゃない?」

 大和が黄瀬宅に来る度に注文されるオムライス。実際は毎日涼太の面倒を見ているせいもあって、毎日の昼食がオムライスだ。
 夜は七時頃に涼太の父親が帰って食べさせるため、何を食べているのか分からない。失礼かもしれないが、もしかしたらコンビニやスーパーの弁当の可能性もある。だとしたらバランスが悪すぎる。
 何のメニューにしようか悩んでいると、涼太が足ごとグイグイと推したり引いたりしてきた。

「オームーラーイースーがーいーいーのー!」

 オムライス以外は断固拒否! という態度にどうすることも出来ない。

「んー、他のは嫌なの?」
「大和っちが初めて食べさせてくれたオムライスがしょおげきてきな味だったから!」

 目をキラキラと輝かせ「絶品だ!」と褒め称えてくる。四歳児が絶品なんて言葉知ってるのか。

「他のも美味しいよ? 涼太くんが見たことない美味しい料理を俺が作ってあげる」

 見たことない美味しい料理というステータスに惹かれたのか「うーん」と唸りながらも首を縦に振ってくれ、一安心した。



「できたよー、はい」

 大和は自分の分と涼太の分の皿をテーブルにコトンと置いた。
 トタトタと走って来た涼太は高い位置にあるテーブル上の料理を早く見ようと椅子によじ登る。

「おわー! なんスかこれ! 始めて見るっス!」

 テーブルの上に乗っていたものはオニオングラタンスープだ。四歳の子供に食べさせるには少し早い気もしたが、涼太が見た事無くて大和が作れる料理と言えばこれぐらいだった。

「このキラキラしてるのなんスか?」
「玉ねぎとチーズだよ」
「えーっ! オレタマネギ嫌いっス! ピリピリするもん!!」

 そう言って、皿を大和の方へと押して食べるのを拒否する。親が叱る時間がないからか、随分とワガママな物言いに呆れた。
 甘いよ、とかパンに付けてみたら……、などと説得してみたが顔は逸らされたままで――

「あーあ、せっかく涼太くんの為に作ったのになー……」

 ショックを受けたように両手で顔を覆い、大袈裟に演技をした。
 すると涼太は心配そうな表情で大和の横の椅子へと登り大和の袖をくい、と引っ張る。

「な、泣かないでほしいっス……オレタマネギ嫌いだけど、大和っちが好きだから頑張って食べるっス!」

 さらっと告白を挟み、傍らに置いてあったフランスパンに手を伸ばす。タマネギの部分のグラタンを掬い取り、大きく開けた口へと突っ込んだ。
 目をぎゅっと瞑りながらモグモグと口を動かす。ちゃんと味わい、時間を書けて飲み込んだ。

「ん! 大和っち! あま、あまー!」

 パァァ、と満面の笑みを浮かべる。
 玉ねぎの味とは思えないのか、スプーンで何度も口へと運んだ。

「ほら、玉ねぎも美味しいだろ? 涼太くんは何でも食べられるんだよ。嫌いなものある?」

 すると涼太はギク、と全身を固め目を逸らした。

「な、ないっスよ」
「そうか! 偉いなー」
「でしょ!? だから明日はご褒美にオムラ……」
「ピーマンの肉詰めにしようか。嫌いなもの無いんでしょ?」
「っ!? ヤダヤダ!! いやっスぅぅぅ!!!」

 まずは涼太の食わず嫌いを治さないといけないらしい。


2012/12/25 大学生ベビーシッター×ちび黄瀬
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