百合組 雪エリ雪 悪趣味エロ


エリアスはきゅうと唇を噛んだ。こんな風に見せ物にされるのが悔しくてならない。
キングサイズのベッドの上、格子の外側から二人に注がれる視線は熱と欲望に満ちている。扇情的な下着姿の、商売女より遙かに淫猥な格好をした美しい少年たちを無遠慮な視線が舐めた。羞恥で顔が熱くなる。
好きでこんな格好をしているわけではない。少なくともエリアスはそうだ。性と狂熱に支配された檻。雪永とアリアと、二人の手を取って逃げてしまいたいのに、悪趣味なそこから抜け出すことができない。
「…っ、」
ぱん、と拍子を打つ音が聞こえて体が震えた。あ、と甘い声が直接耳朶に注がれて、雪永のとろりと蕩けた瞳と目が合った。白い脚を惜しげもなく晒してシースルーの服を纏った、少女のような姿。倒れこんできた彼の体は熱く燃え上がっている。駄目だ、と頭では思ったが、エリアス自身の体からもすっかり力が抜けているのだった。じわりと毒のような熱が全身を駆ける。
イワン・パブロフが鈴を鳴らす時犬が餌も求めるように、掌を打ち鳴らす音に欲情する。そんな酷く滑稽で変態的な習慣づけをされた少年たちは、けれど刃向かう術を持たない。野良犬よりも自由のない籠の鳥は為す術もなく貪られるだけだ。
エリー、と呼ぶ声の輪郭が溶けていた。高く甘い、少女じみた少年の情に酔った声。ぱん、と音が聞こえるたびに雪永のものが熱を帯びていく。単調な乾いた音が聞こえるたび、彼やアリアや客とのまぐわいの記憶が全身に呼び覚まされる。エリアスのものも緩く立ち上がっていくのが分かった。
(こんなのは、駄目だ、)
気の狂った性癖を植え付けられた上に見せ物のように扱われて観察される不快を、膨大な快楽が塗りつぶしていく。ゆきなが、と彼を呼ぶ声さえも濡れていて、脳を溶かした。
「っ、ん、」
ちゅ、と口紅を塗った唇が触れて、心臓が反転しそうになる。ひどく甘い味がした。思考が酩酊したように靄がかかる。
口付けを交わすのは好きだ。相手が雪永ならもっと。薄い手のひらを合わせて、喘ぎの間に互いの名を呼ばう。赤い舌が絡むたび、くちゅりと水音が頭に響く。口腔をかき混ぜられる快楽。唇が離れると、間に銀糸が引かれた。
猫のように小さな舌を突き出して紅い唇を舐めると、お返しと言わんばかりに雪永が唇の端から零れた唾液を舐め上げた。あどけなさの残る美しい顔が頬を染めて笑う。全身を震わす快楽と多幸感。やんわりと理性を溶かそうとする、砂糖菓子のようなそれ。
「ん…エリーも、きもちいんでしょ…?」
「ふ、あ…っ!だ、だめ、そこは、だめ…!」
華奢な薄い手のひらが内股を撫でた。先走りで濡れた女物の下着は既に用をなしていない。くったりと雪永に寄りかかると、彼はやや乱雑に、しかし正確にエリアスの急所を刺激してみせた。
「ん…も、こんなに濡れてる…。エリー、えっちだね」
「ち、ちがう…!僕はそんなんじゃない…!」
雪永の言葉に、溶けかけていた正気が呼び覚まされる。こんなに沢山の客に好奇の目で見られているのに、雪永はどうしてそんなことを言うのだろう。いやいやをするように頭を振ると、ぱん、とまた音が聞こえた。途端、全身を掛ける毒のような快楽。足先から痺れるような電流が流れる。
「や…いや、だめ、こんなのだめだ…っ!」
「は、ふ、…エリー、いっしょにきもちよくなろ…?」
美しい少女じみた美貌が赤く染まっていた。思わず息を飲む。その隙に、繊細な細い指が後孔に触れた。不覚にも高い声が漏れる。指が差し入れられると、すっかり馴らされたそこは貪欲に震えた。離れたい、と思っているはずなのに彼に抱き留められた体勢では動くこともできない。目の前の体にすがりついて鳴く以外、どうしようもなかった。
「あっ、あっあっあ…!ゆきなが、ゆきなが…っ!そこはだめ、だめ…!」
「エリー、ここがいいの…?かわいい、ん、すきだよ、エリーだいすき、」
可愛い、好き、という言葉に、ふわん、と多幸感に犯される。夢中ですがりつく体を細い腕に抱き留められて、汗で濡れた肌が触れあった。互いの嬌声が鼓膜を揺らす。じわりと涙の膜が張って、世界が滲んだ。
「エリーのこと、いっぱいきもちよくしてあげるからね…?」
「ひぁ、ゆきなが、そこさわらないで、あっ、ふぁう…!」
細い指が奥の急所を抉る。小刻みに震える脚に雪永の脚が絡まって、とろりとした熱を感じた。唇が重なるたび、嬌声が口腔に溶けていく。
「んっ、あっ、い、いっちゃ、あ、
ああああ…っ!」
体が跳ねて、張り詰めたものから白濁が零れる。雪永の服が汚れてしまう、と一瞬常識的な考えが浮かんだ。ほぼ時を同じくして腹のあたりが濡れて、彼もまた達したのだと知る。陶酔したように微笑む雪永は凄絶なまでに美しかった。蠱惑的な紅を塗った唇が、弾む息を零すエリアスの唇の端に触れた。
「ん、ぅ、」
女と口付けを交わしたことなどないけれど、女のそれよりもずっと柔らかくふっくらしているように思う。普段客とするのとは大違いだ。口腔を犯す舌の感触。脳髄を溶かして底から湧き出すような快楽を与える口付け。頭に手を回して、彼のさらりとした髪に指を絡めた。
すっかり力の抜けたほそい体に、雪永の華奢な体が重なる。少女同士の交接を思わせる、可憐な少年たちのふれあい。無遠慮で下卑た視線に嫌悪感を感じつつも、どこかでそれを快感に思っている自分がいる。なんて、淫乱で浅ましい体になってしまったのだろう。幾重もの背徳の罪過。こんなことは決して赦されないことなのに。
「エリー、きもちいいでしょ」
「…ぼく、は、」
「駄目だよ、考え事なんて。何も考えない方が幸せなんだから」
少し冷めた、窘めるような声に瞬く間に、彼の手が伸ばされる。つ、と薄手のスカートの間から太股を撫でる手に、背筋がぞわりとする。やめて、と制止する声を無視して、雪永の白い手がエリアスの下履きを剥いでいく。ぐずぐずに濡れた下着に手を掛けられて、羞恥で死にそうになった。
「ね、エリー、いれていい…?」
甘くとろけた、しかし切羽詰まった声。雪永のものが体積を増して、女物の下着の中で苦しそうに自己主張しているのが分かる。ごくりと息を飲んだ。
早く、欲しい。どれだけ巧みな客であってもこんなに欲しくはならない。雪永とアリアにだけ感じる、どうしようもない劣情。
「ん、いいよ、」
ぎこちなく頷きながら脚を開くと、雪永が幸福そうに笑う。どんな少女よりも可憐な体に自分と同じ物がついていて、勃起しているのが背徳的にすら思えた。けれど、そう、結局エリアスも雪永も、そしてアリアも同じ側の人間なのだから、彼らにもそう思われているのかもしれない。
「雪永、…きて、」
人気の娼婦らしくもないたどたどしい誘い文句を紡ぐと、雪永は優しく笑った。胸が高鳴るのは愛しさのせいだ。彼に求められるなら応えてやりたいと思う。大抵の客のものよりは小振りで、ずっと綺麗なそれが後孔に触れた。期待に体が疼く。
「ん、はぅ、」
ちゅぷり、と淫猥な音を立てて、雪永のものが入ってきた。背筋が反射的に仰け反る。雪永の恍惚とした顔が目の前に広がる。ぐぷぐぷと時間をかけながらそれはエリアスの中に進入してきた。
「…っあ、ああ…!」
「ん、はいっ、た、」
一番太い部分が入ってしまえば、根本まで受け入れるのはすぐだった。この瞬間がたまらなく好きで嫌いだ。待ち望んだものに貫かれる喜びと、女のように扱われる嫌悪。けれど今は相手が雪永だから、快楽と悦びばかりが脳髄を支配する。客に犯されるのとは全く違う悦楽。雪永に抱かれるのは好きだ。彼のことが大事だから。中で彼の物が息づいているのが幸せな気さえする。
「んっ、ひぅ、あ、エリー、きもちいよ、」
「あ、は、ぼ、ぼく、も…っ、」
薄い背に腕を回して喘ぐ。ゆるゆるとした動きにもどかしさを覚えて、自ら腰を振る。気持ちよくなりたいし、気持ちよくなって欲しい。そうすると雪永の瞳が快楽に溶けて、抱き締める力が強まった。彼とするのは、どことなく穏やかで心地よい。甘ったるくて柔らかくてきもちいい。
「あ!あ、そこ、すごい、いいの…!」
「ひぁ、エリー、そんなにしめつけちゃ、あ、ああ…!」
きゅうと締め付けると雪永が恍惚と呻いた。びくん、と震えたかと思うと、中にじんわりと彼の精が広がっていく。ゆるりとした快楽に、エリアスもまた絶頂を迎えた。緩やかな絶頂の余韻に恍惚とする。
「…っあ!?」
不意に、乾いた破裂音が耳に届いた。重なりあった体がびくりと震える。
ふわふわと浮上していた心に恐怖が沸き起こった。あまりに心地よくて、すっかり客たちの存在を忘れていた。これは交歓でも戯れでもなく、見せ物なのだとようやっと思い出す。離れなければ、と思うより前に、また手拍子の音が聞こえた。
「んっ、んあ、あ、あっああ…!や、だめ、まって、」
「ひぁあ…!だ、だめ、こし、とまんな、」
音が聞こえるたびに中が抉られた。示し合わせたかのように揃った音はだんだん早くなって、二人の動きもそれに合わせて早くなる。普段よりずっと早いペースで奥を抉られて頭が漂白されていく。厭らしい音が響く。ずちゅずちゅと彼のものが出入りするたびに細かい絶頂が訪れた。脈動が異様な速さになって、呼吸ができない。
「む、むり、ぼく、も、しんじゃ、しんじゃう、」
「んっ、エリーのなか、きもちい…!あ、ふぁあ…!もっと、もっと…!」
「や、ぁ、だめ、だめなのに…!」
悲鳴を上げてみても、雪永はエリアスの言葉など聞こえないかのように拍子の音に合わせて腰を打ち付けてきた。中に放たれた白濁が勢いよくかき混ぜられて泡立つ。客の望むペースで体を動かされている彼の意識はもうとろけているのだろう。普段の気遣いなど欠片もない、暴力的なセックス。
――雪永に、無理矢理犯されているみたいだ。
そんなあり得ない思考が頭に浮かぶ。そうしてそれが全く嫌ではないのだ。彼にそれだけ求められているのだと思うと、ひどく幸せな気がする。荒い息を吐く口元に笑みが浮かぶのが分かった。こんなにも壊れていたのかと拙い理性が悲鳴を上げた。それも、強制的に増幅された快楽に塗りつぶされていく。もっと犯して欲しい。めちゃくちゃにして欲しい。欲望の全てをぶちまけて欲しい。
「ゆきなが、もっと、もっとして、ぼくのことめちゃくちゃにして、おねが、…っああ!」
「あぁん!きゅってされるのきもちい、あ、エリー、おれ、も、でちゃ、ぁ、」
「ん、ふぁ、だして、いっぱいだして、ぼくのなか、たくさん…!」
甘えた声で懇願すると、雪永のものが中で震えた。どくん、と心臓の音が聞こえる。
「ひ、ぁ、は、ああああ…!とまんにゃ、とまんない、おれ、イってるのに…!あ、ま、また…!」
「んあああああ!ゆきながの、たくさんきてる…ぁ、すご、きもちいの、あぁ、ん…っ!」
二人が絶頂を迎えようと拍子の音は止まらない。射精しながら腰を打ち付けさせられている雪永の顔は、涙と汗でぐちゃぐちゃになっていた。白濁の注ぎ込まれた内部をかき混ぜる速度がどんどん速まっていき、卑猥な水音が激しさを増していく。思考が快楽に塗りつぶされて、求め合うことしか考えられなかった。
「あ、エリー、すき、だいすき…」
「ぼく、も、ゆきなが、すきなの、」
激しくまぐわいながら、汗と涙でどろどろになった美しい顔に互いに舌を這わせた。頬がだらしなく緩むのが分かる。雪永の瞳の中で恍惚と微笑む少年はどこの誰よりも淫乱に見えた。こんなにはしたない顔をしているのか、と嫌悪感を感じる自分がいたが、倒錯的な悦びが勝った。
エリーくんは変態だね、と客の誰かが声をあげる。くらりと目眩がするほど興奮した。快楽に濡れた瞳で客たちを見やると、彼らは満足そうに笑んでいた。とろりと笑んでみせると視線の温度が増した。可愛い、いやらしい、と口々に掛けられる言葉に胸が高鳴る。雪永もまた、客たちに掛けられる言葉に幸せそうな顔を見せていた。どんな褒め言葉を掛けられるより幸せだ。淫乱で浅ましい自分をさらけ出しても、雪永や彼らは喜んでくれる。赦してくれる。誰も赦してくれなかった、あの頃とは違って。
しあわせだ。雪永の隣にいることも、男とセックスすることも、淫乱になっていくことも、快楽に支配されることの全てが。幸せで気持ちよくて、嫌なことなんて全部忘れてしまいそうになる。
「ふぁ、ん、ゆきなが、たくさんえっちなことしよ…?」
「うん…おれも、エリーやアリアとえっちなこといっぱいしたい」
首を傾けて誘うと、微笑みながら口付けられた。口内を吸われて頭がぼうっとする。客たちが満足そうに笑う声にすら興奮した。気持ちいいことをたくさんしていいのだと思うととても幸せなのだ。誰も咎めたりしないし、喜んでくれる。気持ちよくて幸せで、みんなが悦んでくれるならそれでいいような気がした。そうしていたら咎められることも棄てられることもないだろうから。
きっともう、外でなど暮らしていけないのだと、淫猥な幸福の中悟る自分がいた。




鳥籠の幸福



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