なんてことはない。



「清川、今日さあご飯いかない?」
「あ…すいませんガミさん。俺今日世良と飲みにいくんス」
あ、ほんと。と言うと清川は申し訳なさそうに視線を落とした。先輩の誘いだ。真面目な清川は断ったのを気にしているのだろう。
「こ、今度は絶対行くっす」
「うんわかったー」
笑って手を振ると、清川はほっとした表情でかけられた集合の監督の声に吸い寄せられる。俺は気を紛らわせるために丹さんに寄っていった。
特にショックだった訳でもない。これからチームメイトとして付き合いは長いんだ。今日たまたま行けないくらいで、別にどうってことない。
次の試合のフォーメーションを確認して、今日も練習が進んでいく。



練習は3時で終わった。清川に会いたくなくて、アイシングとかしてたら堺さんに妙だな、と言われて思わず手を止めた。
「なにが」
「なんでバカ丁寧にやってんだよ」
「堺さんには言われたくない」
「んだよったく、心配してやったのに」
「誰を」
「清川」
今度は肩をゆらしてしまって、それをみてニヤリと堺さんが笑った。
「ガミさん気にしてますかね、って言われた」
「んで」
「あの様子だと気にしてるけど、ほっとけって言った」
「わーひどい堺さん」
「お前のが失礼だっつの。お前清川のこと何だと思ってんだ」バサリ、とタオルを翻して堺さんが立つ。さすが手際よいアイシング。
「なんだって」
「なんだってお前、お前は清川を何かにしてんだよ」
堺さんはいかにもイライラした顔で解れ鈍感馬鹿、って言ってソックスを洗濯のボックスに投げて出て行った。アイシングなんかいつも通りにしときゃよかった。ベンチに横たわってもなにも変わらなかった。

やっぱり、清川に会いたくないなんて、とんでもなく俺は失礼だ。あいつなんも悪くないんだし。ただ俺が訳の分からないものに憂鬱を覚えているだけだ。堺さんの声を辿って起伏を下って本当に落ち込む。ロッカールームでは着替え終わった世良が清川を待っていた。清川ももう出れそうって感じで、俺は本当に情けなく感じて、奥で睨んでくる堺さんにも顔会わせたくない。今日はセンチメンタルなんだよ、俺。

「ガミさんおつかれっしたー!」
「ばいばい世良ー」
「お疲れっした」
「おう」
世良と清川が俺の入ってきたドアから出て行く。いつもと変わらず笑えていたはずだ。うん。
「…ガミさん?」
「…え?」
なんでまだ清川がいるの、と思ったら正体は俺の右手で、縫いつけられたみたいに清川の服を引っ張っていて、

「糸ついてた」
「そっすか、ありがとうございます」
「ん」
「…じゃ、」
「じゃ、ね」
…なにやってんの俺。奥で堺さんがニヤリと笑って、なにかに気づいたか、と目が言った。
俺はただ、蕭然と自分を抑えてしまった。まさか。


なんてことはない。恋に落ちただけなんだ。


無意識にこの手は


(いや、駄目だろ)
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付き合う前の無自覚ガミさんでした
イタズラじゃ…ない!



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