練習して、アップして、またグラウンドに戻る。ざばざはと盥を返したように流れて降ってくる水、水。傘は忘れた。
自主練を断念してクラブハウスの玄関に置いてきた荷物をとりに戻る。玄関にはザキさんがいた。
「椿、」
「は、はい!なんすか?」
「傘は?」
ザキさんの右手には傘。紺色の傘で、いつも使っているもの。
「あ…ないっす」
「入れてやっから、帰るぞ」
「う、うす」
荷物を肩にかけて、ザキさんに着いていった。なんだか妙に緊張してしまった。




「あ、ありがとうございました、ザキさん」
「いいよ」
雨粒が傘を弾いて、傘の中はなかなか煩い。
他愛もない会話をして歩いていたら、いつの間にか寮の前だった。
「なあ椿」
ぴたりとザキさんが止まる。歩みを止めて傘の中で向き合った。ザキさんと視線を合わせるのが苦手だ。ザキさんの鋭い目線が、なんだか全て見透かすような気持ちがした。
「俺がお前を只の後輩だと思ってないとしたらどうする」
「え…」
ザキさんは真顔で、びっくりした。ああ、真剣なんだ。真剣に、今、俺に伝えているんだ。
「お前は俺を拒絶するか?」
「ザキさ…」
「なんでもない、忘れろ」
そう言ったザキさんは今まで見たことのない顔をしていた。いつも自信たっぷりのザキさんでは想像も出来ないような顔。
ぐい、と押しつけられた傘を受け取るしかなく、走り去るザキさんを追いかけることもできなかった。

ずっと前からザキさんが好きだった。キャンプで「お前すげえなあ」って言われたときから、憧れ、いやそんな言葉じゃ間違ってる。恋い焦がれた。あんな人になりたいと思った。俺の理想だった。
そんな人に意識していると言われたら、なんて言えばいいだろう。忘れろなんて、無理だ。俺の気持ちが通じるんだ。


次の日は夕立もなかった。傘を返さなければいけないのはチャンスだった。言おう。言うしかない。

「もし好きって言ったら」

「拒絶しないでくれますか」








refuse


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「悲哀も苦悩も俺だけが」と時間軸は合ってるんですけど話は被ってないのであえて続編にしませんでした。
読んでから読むと赤崎が報われるという\(^o^)/



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