背中までいっぱいの、とんでもなく冷たい気持ち。


「赤崎んちで飲みたい!」
「いやっすよ」
「だってさ椿。じゃあ諦めるか」
「うす」
「おいちょっと待て」



「よかったなー椿、赤崎が良いって言ってくれて」
「はい!」
本当にに喜んでいるのか、椿は楽しそうに笑っていた。そこからは早かった。
世良さんと椿が大量の缶ビールその他酎ハイをコンビニ袋の中でがさがさとゆらしながら飲みに来て、次の朝。昨晩はどうやって眠ったか思い出せなかった。アルコールの力は偉大だ。起きたらフローリングで、ぴったりとくっつく背中。世良さんじゃない。1人ソファーぶんどって爆睡しているのが見える。じゃあ、この背中は。

かけ布団がきちんと2人にかかっていて、椿の寝相がよかっただろうかと思った。兎に角ゆっくり眠った時のように目覚めは良好。頭もよく働く。それだけに、この状況を早く打開したかった。
「まじかよ…」
これは生殺し。
暖かな背中の体温は、密着しているという事実をなによりも物語っていて急に体温を上げた。

椿がいるなら来てもいいと言うのは、椿に対する一種のアプローチだ。いくら疲れていて、世良さんの相手が面倒だとおもったとしても、椿は別格。あいつがいるなら構わない。
そこまで、こいつが好きなんだ。
なのに。いつ俺が気を起こして手を出しても不思議ではないのに俺の気持ちを知らないから、こうしてぴったりとくっついてもなにも感じない。
俺たちはそういう関係だ。クラブの先輩後輩。それ以上にはなれない。
だから狙うなら頼れるかっこいい先輩だ。俺はそうありたい。椿のために。叶わない気持ちを昇華するために。


むくり、とソファーの世良さんが起きる。きょろきょろと見渡して、俺の家だと納得していた。
「起きたっすか」
「ああ…んーおはよー」
ぐぐぐ、と伸びて欠伸をしてこっちを見た。世良さんは椿を見つけてげ、と声を漏らした。見たのは正確に言うと俺と椿の状況だ。
「椿まだ?」
「寝てるんすけど。俺も寝たいし。つか布団」
「俺がかけといた」
あざっす、と言うと世良さんはいいけど、と眠そうに目を擦った。
「床だと体痛くねぇの?」
確かにベッドで寝るのと寝心地は違うが、
「椿いるんで」
「お前ほんとに好きなんだな。椿のこと」
「好きっすよ」
今更。世良さんには前に言ったし、まさか今日まで疑ってたとは知らなかったけど。
子供のように寝る愛くるしさも、暖かい背中も。気持ちは全部しまい込んでしまいたい。辛いのは、俺だけでいい。
「叶わないんだな」
「別に、それでいいっす」

お前が俺の気持ちを知って困るなら、それがいい。
そのまま微睡んで、視界は溶けた。


悲哀も苦悩も俺だけが



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