自分の部屋の小さなテーブルにうなだれて頭を乗せて、試合のDVDを見るのが楽しい時間なのに俺は後藤のことばかり考えている。これじゃまるで女子高生のようじゃないか。後藤のせいで仕事に手が着かない。何時までもあの広い背中ばかり思い出してその度に恥ずかしいような嬉しいような、そんな、錯覚。

(ばか、みたい)

諦めようと思ったのは俺のエゴだった。後藤でさえも、移籍の理由は知らせていけない気がした。知らせたら、チームメイトが後藤と話す機会があったときに話してしまうかもしれない。
だから、後藤にだってばれてはいけない。俺は後藤を捨てた。いや本当に捨てられたなら都合がいい。確かに後藤とは関係を切ってしまったけど、思い出がヤケに鮮やかに感じられたし、しかも、捨てたい記憶は脳裏に深く巣食っていた。フラッシュバックする記憶を背負うのは、なにより思い出すあの柔らかい笑顔を歪めたのが俺だという想像はつらく、悲しく、息苦しい。

(もういつでも会えるのに)

俺がそんなんでも会ったときの後藤は絶望なんか引きずってなかったから、やけに拍子抜けしてしまったんだ。後藤を捨てた俺を恨みの対象としてでなく、ETUの希望として、また会いに来たということに驚いた。何故あんなハガキを出したのだろう。なぜあのハガキを後藤が見たのだろう。クラブハウスに送ったハガキが運命の悪戯を決め込んだからかもしれない。にしても、なんて俺は浅はか。



「ごとう、」
「お呼びかな?」
「…ん?」
「風邪引くぞ、お前ノックしても出ないから入ったら寝てるし」
いつの間にか机に突っ伏して寝ていて、隣に後藤がいて、開いたDVDを片付ける顔が隣にあった。


(小皺、あった ?)

思えば十年一緒に居なかったのだ。顔が変わるのは当たり前だ。でも、一緒にいられなかった十年を、俺が捨てた時間をなんでこんなに、

(恨めるのか)




「ねえ、」
「なんだ?」
「すっきりしなくてさ、仕事に手が着かない」
「…なにか困ってることでもあるのか?」
「んー…、やっぱだめ」
「なにが」
「ごとう、好き」

どん、と胸ぐらを掴んで引き寄せて、腕の中に入る。Yシャツに顔を埋めるなんて、何年振りなんだろう。すがりついているなんて、昔は子供っぽくて嫌だった。年の差が気になった。やけに気にした。それは嫌われるのがいやだった、その気持ちから来たものだったかもしれない。
「いい加減、俺だって我慢できねぇの。十年離れて諦めたはずなのに連れ戻して、ふざけんな。なにが待ってただよ。」
「相変わらず我が儘」
「そんなの知ってるくせに。もうやだ。こっち来て後藤に惚れた」
「なんだそれ」
「…お前は?」
「俺?…知ってるくせに」
手首を掴まれた大きな手に、また新しく恋愛をしている気がした。でもそれは、錯覚なのかもしれない。





堂々巡りの夜に


(でもこれはまた別の話)
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ゴトタツが幸せになってもいいのかなぁと最近思って。別エンドみたいに書いてみました^^





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