今日は晴れた。青空が近いくらいだ。石神様に傘を返しにいくと考えたらなにかお返ししなくてはいけないと思って、今日は午後一番で和菓子屋に来ていた。和菓子屋と言ってもつり目の失礼なやつの家。だからたまにふらりと寄ったら文句いいつつなにか貰えたり。俺にとったらそんな毎日なのだ。石神様とは違っている。


「…注文した大福出来てるっすよ。どこもってくんすかこれ。店のお客さんじゃないでしょ」
「まぁ、ね」
「なんすかもったいぶって」
「また話すから、ありがと遼」
足早に店を出る。紺色の風呂敷の中には、この店で人気の豆大福。
(早く行って、傘返して)
 終わりにしよう。
 俺は昔から武士が苦手だった。昔出会ったえらそうな人のせいかもしれない。でも、武士らしい素振りのない石神様に妙な安心感を抱いた。昨日だって、いつもだったら武士の家に行くのは嫌で、それでも兄の言う事は逆らえない訳だから行ってさっさと引き上げるのに、引き止められても、いやな気はあまりしなかった。
(関わらないようにしよう)
 石神様が嫌いな訳ではない。武士に対する考えが変化するのが嫌だ。相手は武士。どんなに石神様がいい人であっても、武士。




「失礼します」
「おお、昨日の」
下働きの女性に頼んで帰ろうかとも思ったが、庭先で池の前でしゃがみ込んでいる石神様に遭遇してしまった。仕方なく声をかけると、また大らかに笑ってこっちに寄ってきた。
「昨日はありがとうございました」
「ああ、どういたしまして」
風呂敷も傘も同時に渡して、石神様は両方受け取ったけど、きょとんとして、
「これは?」
「お詫びにお菓子を」
「え、いいの?うわーありがとう。お詫びとかいいのに」
「いえ、気が済まないんです。お受け取り下さい」
「ありがと」
石神様は苦手だ。普段武士の方から感じた緊張じゃなくて、なんだか違う緊張が駆け巡ってくる。苦しい、つらい。
「あ、そうだ。名前は?」
「え、か、和己です」
「へぇ、良い名前だね。宜しくね」
俺の手をとって握手をする武士なんて、なんて滑稽なんだ。
苦笑いで返すと、石神様はにっこり、また笑った。
「仲良くしてね」

さて困ったぞ




(庭先で何をされていたんですか?)
(鯉見てた)




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