ぴたりと動くことを止めたのを知っていた。動けなくなったのを知っていた。満身創痍だったのも知っていた。知っていた、だけだった。




 「おーいごとー」
にひひ、と笑って歩いてくる達海。笑われれるのも無理はない。現役を離れて早数年。中断期間のキャンプで、久々に大学生との練習試合の審判としてピッチに上がった。こんなに体力は落ちたかと自分でもおかしかった。

「おじさんが頑張ってるのは楽しいねえ恒成クン」
「はは…っ疲れた…」
肩で息をするなんていつぶりなのか。空は夏の独特の雲を増やしていた。




 浮き沈みが少ないスプリングのベッドにゆっくり体を預けて、ふう、と溜め息をつく。眩しい夏の光にふらふらしただけじゃなく、あの笑顔に振り回されると体力の消耗が激しいのだ。コンコンと叩かれるノックにだらだらと返事をするとドアが勢いよく開かれて、そこには達海の顔。
「なぁ後藤手伝って」
にひひ、とまた笑った。




「そういえば達海。これで相互理解できるのか?」
「あー、こうするとさ、嫌でもお互いを意識するでしょ?」
と言われ、拙い字で書かれた字を読み上げる。
確かに、どんな人か、とはまぁ浅はかにしても。
「考えなきゃわかんないな」
「あとねー言ったでしょ?初日に。要求に気づかせるためにわざとね。まぁドリあたりの頭のきれる奴はもう初めから知ってると思うけど。ほらほら全部の部屋に配るから!」
「う…」
「まぁ後藤クンはバテバテかもしんないけどねー昨日はまだピンピンしてたから良かったけど。あ、もしかして初日だけかと思った?残念。くじ引きだから全部部屋割り変わってんのー。じゃ、俺このフロアやるから後藤上ね」
バイバイ、とまた笑って部屋を出て行った。一人になった俺は手に残された紙を配るべく廊下に出ると、達海の後ろ姿は妙に小さかった。



 部屋に戻ると達海が俺のベッドで寝ていた。寝ると言ってもごろごろしているだけだったが。
「達海、」
「お、後藤おつかれー」
はいこれお礼、とぽい、と俺に向かって発泡酒が投げられた。ひんやりと冷たい缶を受け取ると達海は起き上がった。
「晩酌でもしようか」
「にひひ」



「まだ痛むのか?足」
「うん時たまねー。雨降ってると痛い。全力じゃ走れないし」
「…悪い、変な質問した」
「いーよ」
酒が回ると素直になってしまう。どうしても普段聞こうか聞くまいか考える質問を簡単に聞いてしまう。
「だからね、今日ぶっちゃけ後藤が羨ましいと思った」
「…たつみ、」
「別に後悔してねえし、いいんだけど、やっぱり、ね。また後藤とボール蹴りたい」
笑うな。そうやって、お前には嬉しい時だけ笑って欲しいのに、
「たつみ、達海」
「おいおいおじさんが泣くなよ」
「俺がお前の足になれたら」
「随分と今日はロマンチックだね、後藤」
下を向く達海の隣に座ったこの状況で、ベッドにつかれた手を握りたい。
「やっぱり俺はお前が、」
「言うな」


「言うなよ、後藤」


また、お前はそうやって


俺の嫌いな顔で笑う












じゃあこの手は
なんのためにあるの?


(守りたいのに)
(そうやって
守らせてくれない)
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やっぱりゴトタツは私は幸せにしたくないみたいです!^p^後藤は達海が好きです。達海も後藤が好きです。でも達海は絶対にうんとは言いません。それがうちのゴトタツです。甘々探しに来られた方すいません!うちにはこんなゴトタツしかありません←

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