「加瀬は、最初からそうやんな」






昨日、本当に別れてしまった私たち。
…これで、本当に本当に終わりなんだ。
いいじゃないか、これでわたしばっかりが辛い思いをすることも無くなった。
「最初からそう」って、どういうことか気にはなったけどきっと大した事は無いんだろう。

やっと心が晴れたような、それでいて憂鬱なもやもやが心で渦巻く。
…わたしは、嬉しいの?悲しいの?
そんなのわからない。
わからなくても、いいんだ。

門をくぐり抜けて、下駄箱で上履きと履き替えて、階段を上がって。
ほら、何も変わらない。




「おはよう、加瀬」
「…は」



がら、と何時ものように扉を開ける。
でも、そこにいたのは、挨拶をくれたのは何時もとは違う人。
一瞬動きが止まる。



「今日提出の数学のプリントあるやんか、加瀬やったか?」
「あ、やってないけど」
「だろうと思ったわ。見せたろうか?」
「ほんと?頼もうかな」
「もちろん、ええで」



くしゃ、とわたしの頭を撫でてから席で待っとき、と自分の席に戻る。
机の上に置いてあったプリントをさっと取って、わたしのところに来た。
まだ来ていないわたしの前の席の椅子に勝手に座る。
スクバから教科書を全て机に移しながら白石を盗み見る。

何考えてんの。
昨日の今日だっていうのに。
わたしが見ていることに気付いたのか、白石がプリントから顔を上げ、わたしに微笑む。
…この男は、わたしに勘違いをさせたいのかな。



「写す?」
「いや、少しは自分でやってみる…時間足りなくなったら写していい?」
「おん、偉いな、加瀬は。良かったら教えたんで?」



またふわりと笑って、包帯を巻いた左手でわたしの頭を撫でる。
わたしは何も言えなくなって、とりあえず白石の顔は見れないからプリントを解きはじめる。
合っとるな、とかそこ計算違う、とか上から声が降って来る。



「おはよー蔵ノ介くんと…悠紀?」
「ああ、おはよう後藤さん」
「あ、ユキちゃんおはぁー」
「何やってるん?」
「加瀬がプリントやってなかってんから教えてんねん」
「へ、へー…あ!うちもや!…教えてほしいなー」



こてん、と可愛らしく首を傾げて頼むユキちゃん。
…白石は優しいから、断らないだろう。
だから席戻ろう?と腕を触って促すユキちゃんと一緒に席について、プリントを教えるんだ。
今みたいに。



「悪いけど今こいつ教えてるから」

「ほな休み時間でもかまへんよ」
「おーう白石!おはようさん!」
「!謙也…おはようさん」



…断った。
それも、きっぱりと。
昨日までだったら多分ユキちゃんの方に行ってたのに。



「加瀬、おはよ」
「青井、おはよう」
「何やってるん?あ、数学のプリントやん!俺もやっとらん!なあ加瀬、見せてや!」
「いや、わたしも今やってる最中だし」
「ほなら一緒にやろう!昼に!」
「え」
「あ、ほら、ここの二人もそう言っとるわけやし、昼は皆でプリントやろうや!」
「それええな!宿題出さないとやばいもんな」
「蔵ノ介くん、教えてな?うち、全然わからんねん…」



わらわら周りに集まって、また話が勝手に進んだ。
わたしはプリントに目を向ける。
…これ結構難しいぞ。
終わんないかも、
ふと見るとミキが丁度登校して、こっちに来るところだった。



「堪忍な、俺は加瀬に教えるから謙也に教えてもらい?」
「…え、」



またもやはっきりと言いきったあいつ。
ミキは状況が掴めず、どしたん?と小さく聞いていた。
ユキちゃんがわたしをちら、と見る。



「約束してたん?」
「…え、いや、それは…」



してましたと言うべきか、してない知らないそんなのこいつがほざいているだけと言うべきか。
どう答えれば良いものか本当にわからず、あーとかいや、とか言っていると横から白石が口を出してきた。





「俺が加瀬と一緒にいたいねん」







20121022





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