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結局、白石からの返信は返ってこなかった。
まあ、了承しましたってことかな。
それとも付き合ってるつもりもなかったりして。
…こっちはそれなりにショックなんだけどな。
…やばい、寝坊してしまった。
慌てて髪を整えて、軽く朝ご飯を食べて家を出る。
と言ってももう10時過ぎてるし、遅刻決定なんだけどね。
教室に入ると、ミキが遅いやんか!と叩いてきた。
あ、自習なんだ、良かった。
「寝坊した」
「やろな!寝癖あんで。嘘やけど。なな、やっぱユキ、白石くんがっつり狙っとんでー」
「あ、そうなの?」
「ほら、見てみ」
指を指されて見ると、確かにユキちゃんがわざわざ席を移動して白石の隣に座りプリントを一緒に解いていた。
可愛いな、やっぱ。
「あ、やばいわたしユキちゃんにあんな風に聞かれたら即効恋に落ちるわ」
「うちもや…!」
純粋にユキちゃんがかわいい。
あっちが気付いてくれたみたいで、手をふってくれる。
ミキが小さな声であ、恋に落ちた、と呟いた。
白石がそれにつられて振り返り、わたしを見た途端ガタ、と席から立ち上がってこっちにくる。
「…加瀬!」
「え、」
何で来るの。
ミキがなんかしたのかお前、とでも言うようにわたしをみる。
「おはよ」
「ああ、おはようさん、てちゃうやろ!お前、昨日…」
「…昨日、何?」
「…っ」
「何?悠紀、昨日、なんかあったん?」
何も知らないミキがそう言うと白石が口ごもる。
秘密にしてるんだもんね。
言えないよね。
「蔵ノ介くん?どうかしたの?」
「後藤…」
「悠紀ちゃん、ミキちゃん、おはよう」
「おはよー」
「よー、で何?」
「…いや、昨日いきなり帰ったからなんかあったんかって…」
「ああ、特に何にも無いよ」
「蔵ノ介くん優しいんだね!」
ユキちゃんもきたからか、ごまかす白石。
気付けば青井や忍足も来て、いつものメンバーになっていた。
いつのまにか話題は今度皆で遊びに行く事についてになっていた。
遊園地かー…。
「蔵ノ介くん、一緒にジェットコースターのろうな!」
「ユキ積極的ー!」
「じゃ、じゃあ加瀬、俺とも…」
「あ、青井、わたしジェットコースター乗れないから、」
「ギャップ萌え…!好きそうなのに!じゃあ、待っとる間に回ろうや!」
「あははー」
「な、流された…加瀬は、好きな人とかおるからそうなん…?」
「え!悠紀、好きな人おるん!?聞いてへん!いやや!うちを置いていかんで!泣」
「あははは」
笑って流していると、急に腕を捕まれた。
え!というユキちゃんの声が聞こえて、わたしは教室の外に引っ張られていく。
え、誰か止めてよ。
人気のない廊下の壁にどん、と押し付けられ、顔の横に手をついて閉じ込められた。
「何笑って流してんねん」
「は?」
「…っお前は!…俺の、彼女やろ…?」
ひどく辛そうな顔で搾り出すようにいう白石。
一体何なんだ。
青井の誘いなんかに乗ろうとすんなや、と続けられても、
「もう、別れたはずだよね」
「俺はそんなつもりない!」
即効で返された。
でもね、もうわたしは嫌なの。
ユキちゃんにだって、本当はすごい嫉妬しているんだ。
わたしは、白石が好きだからあの時白石がユキちゃんの名前を言ったのだって、わたしと付き合うことはない、みたいな事言ったのだって、ユキちゃんと付き合えば良いのにって言われて否定しなかったのだってさっき一緒にプリントしてたのだって全部全部嫌だった。
別れたつもりないって言ってくれたのは嬉しいよ、でも、続けて行くつもりはない。
これ以上、我慢なんてしたくないんだ。
もういいじゃない、白石ならもっといい人いるよ。
「じゃあ、今ここで別れよう」
最後くらい、と顔を見て言い切る。
肩に置かれていた手の力が抜けて、だらんと落ちた。
「…苗字は、最初からそうやんな」
悪かった、と小さく言って白石は教室に戻った。
20121009
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