そりゃあみんなには秘密にしてきたけど。
同じクラスのいつめんにだって言ってないし、本人とバレるようなことはやめようと話したけど。
だから毎日のようにあんたの下駄箱に入ってるラブレターだったり、みんなで談笑中なのに知らない女の子が構わずあんたを呼び出してあんたを連れていっちゃったりするのは目をつぶってたけど。

でも完璧なあんたの「他人のフリ」に少し傷ついてたわたしのことも知らないでしょ。


それなのにこれはないんじゃないの










始まりはいつものメンバーで(男子5の女子6のアンバランスチームですけど)馬鹿みたいにげらげら笑ってただけなのに。
誰かがこの中で付き合うなら、みたいな話にすり替えて。
女子の方が多いんだからこっちの空気が少し危ないの気づいてよね。




「じゃあ次青井いきや」
「んー俺はなぁ、加瀬やな」



多分誰にも呼ばれないのはわたしだろうと思っていたらまさかの二人目で名前を呼ばれた。
その時の良かったね悠紀、と言いながらこっちを振り向く友達の顔が正直言って怖い。
女子の中でいつもかわいいかわいいと言われているユキちゃんが一番に呼ばれなかったあたりで空気は重くなってたけど…。



「あはは、ありがとー」
「冷めとるなー、青井なんで加瀬がいいん?」
「やって彼氏になったら違う面見せてくれそうやん」
「お前、ギャップ萌えか!」
「悪いか!悪いんか!?」



ギャップと絶対領域はなきゃあっかーん!と叫んでいる青井はほっといて、次の忍足が言うことになった。
人気のテニス部の付き合いたい人とだけあって、女子はみんな自分が呼ばれるようにと忍足をガン見している。



「俺はやっぱ後藤やなー」
「え!?本当?嬉しいっ」



さらっと言った発言に対し、後藤ことユキちゃんが可愛らしくお礼を言う。
高いところで結ばれているツインテールが揺れて、またこれは男子受けがいいんだろうな。
集中力が切れたわたしはさっきコンビニに行って今隣にいるミキと買ったさけるチーズを食べることにした。



「なんや美味そうなもん食っとるな」
「白石」
「ちょっと分けてや」
「いいよ、はい」
「おおきに、」
「…ちょっと」
「なんや?」
「口開けて待ってないで自分の手で受け取りなよ」
「…連れへんなぁ」



渋々受け取る白石の横で青井がせやろ!連れへんねん!でも二人になるとデレんねん!とまた興奮してる。
お前は何を知っているんだと言いたくなったがやめておいた。



「じゃあそこのいちゃついてる白石いけや」



忍足の一言で女子群が一気に静かになる。
なにせ四天宝寺一のモテ男、白石蔵ノ介に選ばれるなんてこんな光栄なことはないだろう。
このなかには白石にガチ恋してる子までいるんだからそれは余計に、だ。



「…後藤さんかな、俺も」
「し、蔵ノ介くんに択ばれるなんて光栄やわ!めっちゃ嬉しい!」



椅子から立ち上がる勢いで言ったユキちゃん。
声もワントーン上がってる。



「お前、加瀬狙いやなかったんか」
「…加瀬はないな、こんな酒のつまみみたいなん食っとるし、がさつやし」
「そ、そうやんなー!この前なんか…」



心底ありえない、というふうに否定する白石。
そこに乗っかるようにユキちゃんがわたしの話を始める。



「そしたらその蜘蛛素手で掴んで投げたんよ!」
「うちらなんか虫怖くて近づけなかったんにね」
「ユキなんか泣いてたしな!笑」
「な、泣いてへんよぉ!な、蔵ノ介くんはどう思うん?」
「是非加瀬のその勇姿見たかったわ(笑)さぞかしかっこよかったやろな」
「謙也だったら後藤と一緒に泣いてるやろ!」
「なっ!…ふ、ふざけんなや青井!」



「でも女の子は可愛らしいのがええなぁ」
「そうやなあ、つか白石もそう思ったりするんやな」
「そらなぁ、素手で蜘蛛投げる女はなぁ、手かからんでええかもしれんけどな。俺としては甘やかしたいっちゅーか」
「うちらも蔵ノ介くんに甘やかされたいわー!」
「女子は白石にはどうせ甘いんやろー!こいつ変態やぞ!エクスタシーやねんぞ!」
「ちゅーかもう付きあったったらええやん、後藤と白石」
「せや!早く身を固めて女子をこっちに分けてくれや!」



…知らないから仕方ないとは思うけど。
他の事を考えながらもユキちゃんがあからさまに白石を狙っているのは冷や冷やしてたのに。
ほら、ユキちゃんほっぺ赤くして白石のほう見てるじゃん。







「あー…ええかもしれんな」






ガンッと頭を殴られた気がした。
きゃー!と口に手を当てて可愛らしく喜んでいるユキちゃんと頬杖をたてて笑っている白石を交互に見た。
周りでは女子はユキちゃんずるい、とかよかったなーとか騒いでいるし、忍足とかはこのまま付き合ってしまえ、とこれまたうるさく騒いでいる。
わたしはミキとベストカップル誕生の瞬間やね、と小さい声で言い合った。
ちら、と白石がこっちを見たような気もしたけど、きっとそんなの気のせい。
青井がじゃあ加瀬、俺と付き合おうや!と言ってきたので青井とだったら毎日が楽しそうだね、と答えると笑かしてやんで!全身全霊で!と叫ぶようにして返してきたので笑いながら席を立ってトイレに行ってくると教室を出た。




多分明日からはユキちゃんが白石に猛アタックを仕掛けるんだと思うと気が重くなった。
のろのろと自販機まで歩いて小さいペットボトルを買う。
一気に半分位まで飲んで息を吐いた。
…白石はきっと笑顔でユキちゃんと話すだろうから。
今だってまだ付き合えば、と言われて笑って答えてるんだろう。



「(…もしかしてこれで察しろってことなのかな、)」



じゃあそれに応じなくちゃいけない、



震える手で携帯に手を伸ばして別れの言葉を打った。
いろいろ言いたいことはあったけど、あんまり長く書くのはやめておこう。
最後まで「手のかからない」女になっていよう。





To 白石蔵ノ介
――――――――――
別れようか

今までありがとう
楽しかったよ










白石といられなくなるのと、この生活を続けること、どっちの方が辛いかなんてわからなくていい。


もう戻れないんだから。







20210710

書くのにやたら時間がかかった上に悲恋とか…








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