気づけばレギュラーの方々はみんな集まって部室で大会議に発展。
心なしか眉を顰めている柳さんの隣に促されて座ると、心配するな、と小声で励まされた。
もう片方の隣は彩音ちゃん。
真北さんは椅子に座らず、わたしの後ろの壁にモデルのように寄りかかっていた。



「…そうだな、まず…彩音、帰ってきたんだね」
「うん、三日前くらいに帰ってきてたけどみんなを驚かそうと思って誰にも教えなかったの。そしたら何だか空気がおかしいし…マネージャー増えてたし…」
「悪いわね、増えて」
「あ!ううん!ごめんね!本当にそう言うわけじゃないの!!」


「わたし、前から思ってたんだけどどうしてみんなは悠ちゃんに冷たいの?」




天然っ子やってくれました。
グイグイ切り込んで行きました。

一度こじれるとどうでも良くなってしまう私としては、このまま追い出してもらっても支障はない。
いや、めっちゃあるけど。
多分すごく噂になるけど。


彩音ちゃんはぷんすか!みたいな感じで頬を膨らませて怒っている。




「それは!!…こいつが仕事しねえからだろ!」
「彩音とはよく話すけど、こいつとは全然話すチャンス自体ねぇから自然にそう言う扱いにもなるだろぃ」



それはわかる。
ドリンク手渡してくれる可愛い女の子には優しくしたくもなるし、逆にいつも何してるかわからない人にそんなフレンドリーに接する気は起きない。
そうしてたのは私だし。



「大体、彩音がいなくなってから逸月に仕事を押し付けまくりじゃないっすか!!こんな奴1人やめたところでなんも変わんねえんじゃねえっすか!?」
「…確かに、逸月はよく仕事してるところを見るけどそっちは見ねえし」
「その時間部室で座ってても全然不自然じゃないのう」
「…たるんどるな」




嫌われてる。
私めっちゃ嫌われてる。
柳生先輩と桑原先輩は気まずそうにして何も言わないし、仁王先輩と丸井先輩は彩音ちゃん信者だし、部長はだんまり決め込んで、副部長は今小さくたるんどるって言ったのは私に向けて言ったはずだし、切原君は明らかに私を辞めさせようとしてる。


辞めさせようと…


え、辞め…!?


これは絶好のチャンスじゃないの?
今までずっと願ってたのに一度も巡ってこなかった機会が今!
切原君があの時も、そういえばとか次々と私がサボってるエピソードを言い始めているのを遮るように手を上げる。






「…じゃあ辞めます。ありがとうございました」



その瞬間、ばっと視線がわたしに集まったけどそんなの気にしない。
自分の分の荷物を素早くとって席を立つ。



「え、まって悠ちゃ…」
「待って!!!」



部室全体に響くほどの大きな声でそう叫んだのはまさかの真北さんで。
寄りかかった壁から背中を離し、組んでいた腕もほどいて目線をうろつかせながら話し始めた。



「な、なんで辞めようとか言うのよ!皆もおかしいんじゃないの?彼女はちゃんと仕事をしているなんて一目瞭然じゃない!」
「え?」
「最初っからずっと、私が入る前からずっと彼女は仕事してたわ!入ってからも裏方の仕事ばっかやって私をはやく皆と馴染めるようにコートにタオル運ぶだけとか楽な仕事しかわけなかった!」


どばばばっと思ってることを片っ端から声に出してみた、というように真北さんらしくなく喋り続けたけど、突如ぴたっと止んだ。
本当に真北さんらしくない。
堂々としてて静かに喋る彼女が、こんなにも文章にならないまま言葉を紡ぐなんて。



「…わかってたの、私。彼女が仕事してないんじゃないかっていわれてる事も、それが私ばっかりがコートに入る仕事してるからだからってことも。」
「じゃあ、どうして皆に伝えてくれなかったの!?そうしたら悠ちゃんがこうなることもなかったのに!」
「…最初は、最初はそれでいいと思ってたの。レギュラーの皆とさえ仲良くなれればいいと思ってたからむしろ好都合とさえ思ってたわ。だから何もいわなかった」
「…そんな…!真北さんって言うんだよね?真北さんは…」
「でも!途中からはそんなの思わなかったわ!彼女が、神田さんがあんな状況でも直向きに選手のために働くから、私もそんなこと考えてられないって…それに、酷い態度の私にも優しくしてくれて…」


だから辞めるなんて言わないでちょうだい、とわたしの腕を控えめにつかんで涙声で訴えられた。
美人の泣き声はきつい。




部室の空気は一転していた。





20141028

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