「おい、ちゃんと仕事してるんだろうな」



切原くんの視界に入るたびに確認や嫌味を言われるのももう慣れた。
困るのはそれを聞いた副部長が射殺さんばかりの眼光を放ちながらこっちを睨んでくることだ。
一応ちゃんとやっているから、火のない所に煙は立たない、と怒鳴られたりはするけれど殴られはまだしていない。




「ねえ」
「…どうしたの?」
「倉庫、一緒に行きましょう」
「教えてくれればわたし一人で持ってこれると思うけど…」
「いいわ、二人で行った方が早いもの」




…二人で歩いてると押し付けんなよ、とか言われるから嫌なんだけどな、とは言わない。
真北さんは気を使ってくれているのかわからないけど何処かに行くのに誘ってきたりドリンクを渡すのをわたしに頼んだりするようになった。
この子もまたできた女である。




「…よ、っと…意外に重いね」
「このくらいどうってことないわ」
「すごいね」
「…重いなら私が持つわ、そっちの方が重いもの」
「え!いやいやいいよ自分で持てるもん」




ならいいけど、と真北さんは一足先に倉庫から出てこっちを見た。
それがわたしが出てくるのを待ってるってことに気付いて早足で自分も倉庫から出る。





「逸月!」
「赤也」
「押し付けられてねえかよ!?うわ、重そうなもん持ってんな!貸せって」



走って近寄ってきた切原くんが真北さんの持っていた荷物を奪い取る。




「赤也、こっちの方が軽いの、大丈夫だからそっちを手伝ってほしいわ」



そっち、というのは言うまでもなくわたしの方の事で。
案の定切原くんは嫌そうな顔をした。



「は?こいつ珍しく仕事したんだからやらせとけばいいじゃん、俺は逸月しか手伝う気ねえし」
「…赤也」
「早く行こうぜ」



荷物を片腕で抱えて空いたもう片方の腕で真北さんを引っ張って行った。
切原くんには完璧に嫌われてるわこれは。




少し重かった荷物がさらに重くなった気がして抱え直してからわたしはもう一度歩き出した。
この後は何ができるかな。
まだやってないことは何だったっけ。

なるべく考え事をして、気を紛らわせて、辛いことなんか考えないようにしたかった。







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